この記事の要点
- 介護離職とは介護を理由に本業を離職すること
- 介護離職の理由1位は「仕事と介護の両立が難しい職場だった」
- 介護離職するとかえって介護の負担は増加する
- 2021年最新の介護離職防止支援制度を紹介
親の介護は、ときに子供にとって非常に大きな負担ともなります。
働きながらの在宅介護に限界を感じて、いっそのこと会社を辞めて介護に専念しようかと悩んでいる方も多いでしょう。
介護のために仕事を辞める「介護離職」が現在大きな社会問題になっています。どのような状況で介護離職が起こり、介護離職によって誰にどのような影響が生じるのでしょうか。
また、介護離職を防ぐ方法はあるのでしょうか。
今回は介護離職と2021年に開始した最新の介護離職防止支援制度について解説します。介護事業者の方も、要介護者をかかえるご家族を取り巻く環境について理解を深めておきましょう。
目次
介護離職とは

介護離職とは、親などの介護が原因で仕事を辞めることです。
会社を退職するだけでなく、介護を原因とした自営業の閉鎖・廃業の場合やパート・アルバイトなど非正規社員として働いていた方が、介護のためにパート先・アルバイト先を退職した場合も介護離職となります。
高齢者の年齢が75歳以上になると、要介護認定される割合は大きく上昇します。
要介護認定された高齢者に子供がいた場合、子供の年齢はおおむね40歳~50歳あたりです。いわゆる働きざかりと呼ばれる年代の方が介護の担い手になるケースが多く、兄弟姉妹がいない、もしくは頼れない状態だと、仕事を続けられないほどに介護の負担が重くなってしまう恐れがあります。
年間10万人が介護離職をしている
実際に、親などの介護を理由として介護離職をする方は非常に多く、毎年10万人もの方が介護離職をせざるを得なくなっています。
総務省の「平成29年就業構造基本調査」では介護離職者の統計をとっていますが、2012年の調査開始以来、常に8万人~10万人が介護を理由として離職しているという結果が出ています。2021年現在も増え続けていることが予想されます。
また、介護離職を選択した方の男女割合は、女性が7割~8割を占めています。
女性が介護を担う割合が高い事実がうかがえますが、過去10年を比較すると男性が介護離職する割合も6.5%増加しているため、これからは男性といえども介護離職が無関係だとは言い切れません。
介護離職に至る理由
在宅介護で親の面倒を見ている方の中にも、介護離職しないで済む方もいれば、残念ながら介護離職に至ってしまう方もいます。
どうして介護離職しなければならなくなってしまうのでしょうか。
介護離職の原因としてもっとも多い理由は「仕事と介護の両立が難しい職場だった」が圧倒的1位です。2位は「自分の心身の健康状態が悪化したため」となっています。
また「自分が介護に専念したかった」と理由を挙げた方も全体の2割以上います。
この調査結果からは、世間や勤め先の会社、そして介護を担う方自身も「親の介護は子供の責任」と考える層が多い点が推測できます。
介護離職後には介護負担が増加する
それでは、介護に専念するために会社を辞めれば、時間的負担がなくなり楽に介護ができるようになるのでしょうか。
実は介護離職をすると、かえって介護の負担は増してしまうのです。
厚生労働省が発表した「令和元年度仕事と介護の両立等に関する実態把握のための調査研究事業」によれば、介護離職後の介護者の5割以上が「介護離職したら介護負担が増えた」と感じています。
介護離職後には精神的負担・肉体的負担・経済的負担のいずれも増加する傾向にあり、介護離職が「楽に介護する」ための手段ではないということがわかります。
介護離職後の再就職は容易ではない
さらに、いったん介護離職した方の再就職は容易ではありません。
介護が終わった後、もしくは介護の途中で再就職を志して就職活動した方のうち、再就職がかなった方は半数未満です。また「再就職活動を行っていたがあきらめた」方も全体の3割以上を占めています。
40代~50代で働きざかりの方が介護のために経済活動を停止する事態は、その本人だけでなく社会にも大きな損失となります。
2021年最新の介護離職防止支援制度を紹介
介護離職の増加は、国としても大きな問題です。
そのため政府は、介護をする方ができるだけ介護離職をしないですむように、さまざまな手段を講じています。
特に2021年は介護離職防止のために、3つの制度改正が行われました。
ここからは、2021年に開始された最新の介護離職防止支援制度をご紹介しましょう。
2021年1月:介護休暇の取得が時間単位に
高齢者の介護では、介護施設や病院に行くときの付き添いをするために数時間だけ仕事を休まなければいけないシーンが発生します。
また役所の手続きやケアマネジャーとの打ち合わせは平日の日中に行わなければいけない場合が多く、会社勤めの方はその都度有給休暇を取得してお休みしなければいけません。
そのため2021年1月より介護休暇制度が変わり、1日または時間単位で休暇を取得できるようになりました。
2021年3月:両立支援ケアマネ研修の開始
仕事をしている介護者家族の介護離職を防止するためには、要介護者本人の状態だけでなく介護者家族の就労状況をも踏まえたケアプランを作成する必要があります。
そのため厚生労働省では2020年に「令和2年度仕事と介護の両立支援カリキュラム策定展開事業」を開始し、介護者家族の両立支援が行えるケアマネジャーの育成に乗り出しました。
2021年3月には「仕事と介護の両立に関する研修カリキュラム」を作成し、ケアマネジャーが仕事と介護の両立について学習するための研修を行う方策を検討しています。
参考:厚生労働省|令和2年度仕事と介護の両立支援カリキュラム策定展開事業
2021年6月:育児・介護休業法の改正
2021年6月には育児・介護休業法の4度目の改正が可決されました。
本改正は主に育児休業に関する制度改正が主となっていますが、介護関係の改正としては有期契約労働者の介護休業の取得要件が緩和されています。
改正前の育児・介護休業法では、入社1年に満たない有期契約労働者は介護休業を取得できませんでしたが、2021年改正によりその要件が撤廃されました。
なお、本改正は2022年4月より段階的に施行されます。
知っておきたい仕事と介護の両立支援制度
介護離職を防ぐための支援制度は、2021年から始まったわけではありません。
2021年よりも前から、仕事と介護を両立させるための制度は存在しています。
以下の介護休業制度は、2020年以前から労働者に認められている権利です。いざ介護が始まったときには利用申請できるように覚えておきましょう。
また介護休業の利用時には、雇用保険より助成金が支払われます。
介護休業時に受け取れる介護休業給付については以下の記事も参考にしてください。
▶介護関連の助成金まとめ 介護事業所向け・在宅介護者家族向けにわかりやすく紹介
まとめ
今回は介護離職と、介護離職を防止するために存在している国の支援策を、2021年度の最新情報を踏まえて解説しました。
介護離職は、なんとしてでも避けなければいけません。それは離職する本人ばかりでなく、介護をされる側の要介護者にとっても、働き手を失う会社にとっても、社会にとっても大きな損失になるからです。
介護離職防止支援制度を活用して、できる限り介護離職しないですむ道を探りましょう。