いま「従業員エンゲージメント」に注目したい理由 経営テクノロジーの最先端を介護業界に

いま「従業員エンゲージメント」に注目したい理由 経営テクノロジーの最先端を介護業界に

最終更新日 2022.11.16

世界経済や情勢が複雑化する中、組織のパフォーマンスを向上させることに対する関心は益々上がる一方です。組織のパフォーマンスを向上させるためには、決められた時間の中で大きく成果を上げる工夫や、従業員が組織に定着する工夫が重要になります。

ここで重要になるキーワードが「従業員エンゲージメント」です。
今回は介護業界における従業員エンゲージメントの重要性を掘り下げ、さらに従業員エンゲージメントを強化することを目的としたデジタルツール・サービスを紹介していきます。

この記事の要点

  1. 従業員エンゲージメントは普遍的な概念だ
  2. 新たな研究でポジティブ思考と従業員エンゲージメントの関連性が検証され、ポジティブ思考の重要性が示唆された
  3. すでに国内で従業員エンゲージメント強化サービスが存在している

介護と従業員エンゲージメント

世の中には多くの仕事がありますが、パフォーマンスの測り方は業種によって異なります。
介護において組織のパフォーマンスが上がることとは、利用者が十分なサービスを効率良く得られることを意味します。そのためには、従業員一人一人のパフォーマンスを上げること、そして従業員の定着(離職しない状態)が重要になります。
人材不足が深刻化しつつある介護業界では、他の業界と比較しても特に注意していくべき課題です。少子高齢化社会にとっては、社会全体の課題とも言えます。

さて、従業員のパフォーマンスが上がること、組織に定着することは、「従業員エンゲージメント」が強化された結果起こるものだと考えられています。

従業員エンゲージメントとは

そもそも、従業員エンゲージメントとは何でしょうか?従業員エンゲージメントという言葉を聞いたことがある方は少数派かと思いますので、まず簡単に言葉の定義を載せておきます。

従業員エンゲージメントとは端的に言うと、
”従業員が仕事を通して組織との絆を強めることで、個人としても成長しながら、組織への貢献意欲を持っている状態を示す概念”
です。
従業員か組織(雇用主)どちらか一方のみ得をするのではなく両者がWin-Winになる関係性を築くイメージですね。
従業員エンゲージメントが高いほど、仕事の生産性、離職率の低下などに効果があると見込まれています。

従業員エンゲージメントという概念は、「エンゲージメント理論」という研究に由来します。エンゲージメント理論はアメリカの学者カーンにより1990年に発表された論文で提唱された理論です。
カーンはエンゲージメント理論の中で、『従業員が自身の仕事に「意味があること」「安全であること」「可用性があること」を認識すれば従業員エンゲージメントは高まる』と指摘しています。

※ここでの可用性は、従業員が仕事を遂行するための十分なリソースを持っていることを意味します。

カーン近影
ウィリアム・カーン(William Kahn)近影(Boston Universityウェブサイトより引用)

カーンの提唱したエンゲージメント理論は2つの点において画期的でした。1点目は、従業員エンゲージメントが高まる条件を特定したこと。2点目は、現実の経営に適用することが可能であることでした。
学問にありがちな「理想的な環境でのみ観測される、現実には極めて珍しい現象」を説明するものではなく、「あらゆる実環境で発生させられる現象」を説明するものだったのです。従業員エンゲージメントを工学的に増やせるという発想に繋がるものでした。

近年、従業員エンゲージメント強化に関するビジネスや新しい研究が盛んになっていますが、全て上記の研究が基礎になっています。

ビジネスに関しては後述しますが、新しい研究の例としては「従業員エンゲージメントとポジティブ思考の関係性」について調べられているものがあります。
テレワークやステイホームにより、組織と個人の絆や前向きでいることを維持する難しさなどが再認識された昨今ならではの研究テーマです。
下記で少し紹介していきます。

ポジティブ思考との関連性を検証する実証実験が行われた

従業員エンゲージメントに対するポジティブ思考の影響を調べる研究に取り組んだのは、タイにあるラムカムヘン大学の研究者たちです。
彼らは様々な企業と連携して、ポジティブ思考および達成価値、従業員エンゲージメントおよび革新的な仕事の行動がそれぞれ相関するかを実証実験で調べました。

参照する科学論文の情報
著者:Peerapong Pukkeeree, Khahan Na-Nan and Natthaya Wongsuwan
タイトル:Effect of Attainment Value and Positive Thinking as Moderators of Employee Engagement and Innovative Work Behaviour
URL:doi.org/10.3390/joitmc6030069

下記に、概念を示す図を先に置きます。

研究概念図

まずはこれらの図に登場する新しいキーワード「革新的な仕事の行動」「達成価値」そして「ポジティブ思考」を順に説明していきます。

革新的な仕事の行動

革新的な仕事の行動とは、革新的なアイデアを生み出し、他者に共有し、仕事に適用する従業員の行動を意味します。
日本では殆ど馴染みのない言葉ですね。しかし普段の仕事場を思い浮かべてください。より良い仕事をするために積極的に新しいアイデアを試す同僚はいませんか?もし居たなら、彼らが行なっているのは革新的な仕事の行動という訳です。仕事のパフォーマンスが高い状態の必須要素ですね。

エンゲージメント理論を最初に提唱したカーンは『従業員が、「自分の仕事は組織(雇用主)と自分自身の両方に意味がある」と心理的に認識した際に、革新的な仕事の行動を示す』と仮説を立てました。
これは言い換えれば従業員エンゲージメントが高いと、結果として革新的な仕事の行動が生み出されるという意味でした。

達成価値

さらに研究は進み、「達成価値」という新しいキーワードが登場しました。達成価値とは、平たく言えば仕事を達成する動機です。例えば「自尊心」や「手に入る力」、「友情」などです。
従業員が認識している達成価値が高ければ高いほど、最終的なパフォーマンス(従業員エンゲージメントや革新的な仕事の行動)が高くなるであろうという仮説が立てられました。

ポジティブ思考

最後に、ポジティブ思考です。今回の概念図の中で唯一、聞き慣れた言葉なのではないでしょうか。ポジティブ思考とは、たとえ目の前に辛い現実があっても素晴らしい側面を見つけて利点を得る思考プロセスを特徴としています。
それは新しい発明やソリューションを生み出すことに繋がるため「創造的(クリエイティブ)」だとされています。
ポジティブ思考とこれまでの研究を統合し研究者たちは、次のように仮定しました。

『達成価値を認識した上でポジティブ思考を持つこと』こそが、『従業員エンゲージメントの高い個人が革新的な仕事の行動を行うこと』につながる。

言葉にすると複雑なようですが、図を参照すれば比較的シンプルな関係であることがわかります。下記に再掲します。

研究概念図

実証実験の結果

分析のイメージ

ラムカムヘン大学の研究者たちは、この概念図の正しさを検証するべく、タイの企業に勤める様々な従業員をサンプルとしてケーススタディーを行いました。性別や年齢、教育レベルに至るまでバラバラでしたが、教育レベルに関しては全員が大学の学士号以上で卒業していました。
ケーススタディーの期間は4週間、被験者は約400人(実験データが取れたのはその内348人)、調査方法はアンケートフォームを使用した統計でした。

結果として、大きく次の4点が得られました。

(1)「従業員エンゲージメントが革新的な仕事の行動に影響を与えている」という仮説に沿ったデータが得られた

(2)「従業員エンゲージメントと革新的な仕事の行動」の関係に対して達成価値(の認識)が影響するという仮説を裏付けるデータは得られなかった

(3)ポジティブ思考が「従業員エンゲージメントと革新的な仕事の行動」の関係に対して影響を持つと主張できるデータが得られた

(4)達成価値やポジティブ思考が高ければ高いほど「従業員エンゲージメント」も強くなるという相関が見られた

理論や実証研究から考えられること

上記のような結果やエンゲージメント理論の基礎を、実際の仕事においてどのように活かせばよいのでしょうか。

これまでの結論としては、「従業員は、ポジティブ思考を持ちつつ達成価値(仕事を達成する動機)を認識することが重要だ」という理解になります。
従業員のやる気を起こすためには、組織として、ポジティブ思考を醸成することが一つのキーという事です。

そのためには、ポジティブ思考や達成価値を得られるツールを使うのが建設的なアイデアになるかもしれません。
国内で使用できる従業員エンゲージメント強化サービスを調査したので下記に紹介します。

国内の従業員エンゲージメント強化サービス

1、介護thanks!

特徴

  • 国内で唯一「介護業界に特化した」従業員エンゲージメント強化サービスである
  • モバイルアプリ、WEBブラウザの両方で起動でき、マルチデバイス(PC、タブレット、スマートフォン)に対応している
  • 動画や画像を共有することができる
  • 表彰やランキングなどの機能がある
  • 介護事業者への導入実績がある
  • データ分析によるチームワークの可視化ができる

2、RECOG

特徴

  • 「レター」と呼ばれる独自のコミュニケーションシステムを採用している
  • 掲示板、チャットなどを内部実装している
  • 個人だけでなくチームや部署の固有ページを作成できる
  • 会社の行動指針にもとづいたバッジを相手に贈ることができる

3、THANKS GIFT

特徴

  • 「サンクスカード(ありがとうカード)」と呼ばれる独自のコミュニケーションツールを採用している
  • アプリ内で企業理念を確認できる「経営ビジョンブック」機能を実装している
  • 従業員の心理状態を測るためにアンケートを配布するエンゲージメント診断機能がある
  • アプリ内で貯めた社内通貨を利用して福利厚生を構築することができる

まとめ

この記事では、従業員エンゲージメントの基本的な説明や重要性、近年行われた研究の解説、国内で使える従業員エンゲージメント強化サービスの紹介を行いました。

今回学んだように、従業員エンゲージメントの考え方は普遍的なものです。一方、業界や業種によって組織のパフォーマンスに関わる考え方は異なるものです。

従業員エンゲージメントの考え方を、まずは取り入れる姿勢をとってみる。そして、自身の所属する、あるいは運営する組織の特性に合わせて従業員エンゲージメント強化の工夫を施してみるのがよいのではないでしょうか。

臼井 貴紀
● 監修者情報
臼井 貴紀 Usui Kiki
Hubbit株式会社 代表取締役社長。藤田医科大学客員教員。早稲田大学卒業後、ヤフー株式会社に新卒入社。営業、マーケティング、開発ディレクション、新規事業開発など幅広く担当。その後、ベンチャー企業に転職しAIを活用したMAツールの立ち上げを行った後、Hubbit株式会社を設立。高齢者施設に3ヶ月住み込んで開発したCarebee(ケアビー)は、日本経済新聞、NHKおはよう日本、ABEMA PRIME等に出演。
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