中期アルツハイマー患者の「混乱」をAIで察知 対話を助ける最新テクノロジーとは

中期アルツハイマー患者の「混乱」をAIで察知 対話を助ける最新テクノロジーとは

最終更新日 2022.11.24

こんにちは。世の中に数ある記事の中から、このサイトの、この記事を開いてくれてありがとうございます。

このサイトは、ケアの未来を考えるサイトです。

現在、高齢者の増加は大きな社会問題になっています。
現場でその問題に取り組んでいる方、そして、そんな現場のことを考えている方に、この業界における新しいテクノロジーの登場をお伝えしていきたいと思います。

今日のテーマは「アルツハイマー患者との対話」です。

この記事の要点

まずは今回の話の要点をお伝えします。忙しい方はこの3行を先に読んで、時間ができたら戻ってきてくださいね。

  1. アルツハイマー関連の技術に対する、世間の期待は高まっている。
  2. いわゆる「AI」による、対話をたすけるシステムが研究されている。
  3. そのシステムは、現時点で、高い性能を示している。

しかし、これだけでは「なんだか分からない」という方が多いでしょう。

先に進みます。

★この記事で参照している科学論文の情報

著者:Hamidreza Chinaei , Leila Chan Currie , Andrew Danks , Hubert Lin , Tejas Mehta , Frank Rudzicz
タイトル:Identifying and Avoiding Confusion in Dialogue with People with Alzheimer’s Disease
URL:DOI

※このサイトでは、研究のお話しをするとき、必ず参照している文献の情報を表示します。もし原文が気になった方は、「DOI」という文字をクリックして論文も見てみてください。

常識を変えるタイミング

被介護者のなかには、アルツハイマーを患っている方も多くいらっしゃるかと思います。

アルツハイマー患者は、脳の認知機能が衰えることが原因で、健常者との会話がままならなくなってしまいます。

さらに心苦しいことに、それは進行性の病気です。
進行性がゆえに、介護者にとっては、被介護者との会話は「難易度が高くなっていく」タスクと言えます。

「こんなに頑張っているのに、悪くなる一方」と、つい弱気になってしまうこともあるかもしれません。

今日の話は、そんな人に知っておいて欲しい話です。

アルツハイマーに悩んでいる国は、日本だけではありません。北アメリカでは、アルツハイマー患者に対する課題意識が膨れています。一説によると、関連する市場が同国では約10兆円規模にまで膨れているともいいます。
「市場が大きくなっている」というのは、難しい表現に聞こえますが、世間の期待が高まっているということを意味します。

常識を変える技術が現れるのは、得てして、このようなタイミングが多いものなのです。

中期アルツハイマーに注目

前述の通り、介護者や患者関係者が、破綻することなく会話を続けられるシステムの開発が望まれていました。

こうした状況に着目した米国トロント大学のHamidrezaら研究者は、アルツハイマー患者が、中期にさしかかると会話が困難になることから、中期アルツハイマー患者とその周囲の対話を助けるアイデアを考えることにしました。

そして、会話の「破綻を検知」できるシステムの研究開発に着手しました。

さあ、肝心の研究結果はどうだったのでしょうか。

彼らの「混乱」に気づく

さきに結果をお伝えすると、彼らの開発した技術は、82%の正確さをもって、対話のなかで生まれるアルツハイマー患者の混乱の特定に成功したのです。

「82%の正確さ」って、一体なんのことだろう?と思う方も多いと思います。

これは、つまり、「アルツハイマー患者が混乱を感じたタイミングのうち、約8割のタイミングで、機械がそれを感知する」ことを示しています。

これが本当なら、患者と健常者のあいだの溝を埋める助けになるかもしれません。

混乱にはシグナルがあった

研究者は、中期アルツハイマー患者のことを調べるうちに、彼らの話す言葉の中には、「混乱を示す『言語的な特徴』」があることに気がつきました。

そして、機械学習とよばれる手法を使って、その「混乱を示す『言語的な特徴』」を洗い出すことができたのです。

機械学習って何?

さて、この「機械学習」という言葉を聞き慣れないひとのために、少し補足をします。

わたしたちの過ごすこの世界には、「パターン」が溢れています。

たとえば、「赤ちゃんが泣くタイミング」。
または、「線路がうるさく鳴るタイミング」。
ほかには、「万馬券が出るタイミング」なんかも、実はパターンを持っています。

それらのパターンは、
「人間が気づいて、計算することで正体がわかるもの」
だけではありません。

「なんとなく気づいているけど計算できないもの」、そして

「そもそも気づかないもの」もたくさん存在します。

このような物事に対して、機械を使って「気づく」「計算する」ことを考える学問が、機械学習です。

人間と同じようなことを、人間にできないレベルで行う技術なので、「AI(人工知能)」の一分野とも言われています。

このサイトでは、この「機械学習」という言葉や、「AI」という概念が、よく登場するので、いつの間にかあなたも詳しくなっていくかもしれません。

研究は最初の一歩

この研究によって得られたのは、平均82%の正確さ(最高96.1%の正確さ)で「混乱を感じとる」技術でした。

このような技術がこの先、実用化されると、アルツハイマーを患った人々との対話や、自分が患った時の対話が楽になることでしょう。

もちろん、この先には、まだまだ道は続きます。たとえば、以下のようなプロセスが待っていることでしょう。

  • 「この技術を搭載したマシン」の設計。
  • 現場で使うことのできるくらいの価格で生産する計画。
  • 思いもよらないところで誰かを傷つけたりしないか、安全面の確認。

研究は最初の一歩に過ぎません。
しかし、未来に育てていくことのできる確かな芽でもあります。こうした芽を知り、そして、大木に育つ未来を想像すると、明るい気持ちになりませんか?

何か感じたり、思いついたり、不思議に思ったりしたら、ツイッターやフェイスブックでつぶやいてみてくださいね!

アルツハイマーを検出するだけでなく、回復させる手段も研究されています。

コンピュータゲームが認知症に非常に有効かもしれない件について。

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アルツハイマー関連の最新科学に関心がある方は、ぜひチェックしてみてください。

臼井 貴紀
● 監修者情報
臼井 貴紀 Usui Kiki
Hubbit株式会社 代表取締役社長。藤田医科大学客員教員。早稲田大学卒業後、ヤフー株式会社に新卒入社。営業、マーケティング、開発ディレクション、新規事業開発など幅広く担当。その後、ベンチャー企業に転職しAIを活用したMAツールの立ち上げを行った後、Hubbit株式会社を設立。高齢者施設に3ヶ月住み込んで開発したCarebee(ケアビー)は、日本経済新聞、NHKおはよう日本、ABEMA PRIME等に出演。
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