介護でAI活用|導入の現状と最新の研究から介護の未来を考察 | AIケアラボ

介護でAI活用|導入の現状と最新の研究から介護の未来を考察 | AIケアラボ

最終更新日 2023.11.24

この記事の要点

  1. AI(人工知能)は人間の知的行動を機械が一部再現したもの
  2. AIは介護業界ですでに活用されている
  3. 未来の介護ではさらにAI活用の幅が広がる
  4. 最大の課題はデータ収集

最近「AI」という言葉を目にする機会が増えています。

介護業界とAIはまったく関係ないようにも思えますが、実際にはAIが介護業務の大きな手助けになっています。

今回はAIとは何か、AIが介護のどんな助けになるのか、そしてAIと介護の将来的な可能性について、最新の研究結果を挙げながらわかりやすく解説します。

介護の未来を明るくするために、最新のテクノロジーが介護に与える影響を学んでいきましょう。

AIとは

AI(artificial intelligence)とは、人間の思考・分析・判断など知的行動の一部をコンピューターを用いて人工的に再現したものです。日本語では「人工知能」と呼ばれています。

コンピューターに入力した大量のデータからAIがパターンを認識し、機械学習していきます。学習した結果は新たな入力に順応します。

AIが繰り返しデータを読み取って学習を続けることで、まるで人間が思考するように柔軟な判断がくだせるように成長していくのです。

AIについては文部科学省のウェブサイト内にわかりやすい解説があります。

参考:文部科学省|見てみよう科学技術「AIってなに?」

人手不足の介護業界を支援するAI

人手不足

現在、介護業界は深刻な人材不足に悩まされています。

さらに都道府県の推計によれば、いわゆる団塊の世代が65歳以上の高齢者世代に突入する2025年末には、約245万人の介護職員を確保する必要があると考えられています。

2020年時点の介護職員数の約190万人がこのまま推移した場合、2025年度には介護職員が55万人も足りない事態になってしまうのです。

採用の努力を重ねて人材を確保しなければいけないのはもちろんですが、どうしても人手が足りなくなってしまったときには業務を効率化するより他にありません。

AIを介護に導入することにより、分析や判断を必要とする業務の一部をコンピューターに置き換えられる可能性があります。

これからの介護業界を救う手立てが、AIになるかもしれないのです。

介護業界でAIを活用するメリット

介護業界でAIを活用すると、どのようなメリットがあるのでしょうか。

介護スタッフの負担軽減

AIを活用することで、介護スタッフの肉体的・精神的な負担を緩和することができます。

例えば、AIを搭載した見守りロボットを導入すれば、ベッドから転落しそうなどといった危険な場合にアラートでお知らせしてくれるので、夜間の巡回頻度が減り、肉体的負担を軽減できます。

また、何かあればアラートで教えてくれるので、「居室を見に行くまで何が起きているか分からない」というスタッフの不安感がなくなり、精神的負担も少なくなります。

書類作成の効率アップ

介護スタッフは対人での介護業務以外にも、介護記録やケアプランといった書類作成の業務が少なくありません。

このような業務に音声入力システムを活用すれば、キーボード入力が苦手な年配スタッフでも手軽に介護記録を作成し、データとして蓄積していけます。

また、ケアプラン作成システムを使えば、ゼロから文章を考えることなく、短時間で漏れのない説得力あるケアプランを作成できます。

利用者の満足度向上

上記のように介護スタッフの業務負担を軽減することで、時間や気持ちにゆとりが生まれ、利用者お一人おひとりに合った介護を実現できます。

その結果、利用者やそのご家族の満足度が向上するでしょう。

すでに介護業界ではAI活用が始まっている

AIの可能性に既に気づいている一部の介護事業所では、早くもAIを活用し始めています。

またAIを搭載した各種コンピューターシステムを提供するIT企業なども、介護業界向けのAIシステムを販売しています。

2021年時点で既に利活用されているAI介護システムを知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
介護事業所で利用されているAI・ロボット9種 最新の導入割合と活用の方策

さらに広がるAI活用の可能性

AIの技術開発や介護業界への浸透に伴い、介護業界におけるAI活用の可能性はさらに広がっています。

ここからは当サイトでこれまでにご紹介した最新の研究結果から、将来的に期待されている「AIによってもたらされる介護の質向上の可能性」をご紹介します。

認知症の診断

認知症が疑われる高齢者の発語内容から、AIがアルツハイマー病か否かを見分ける研究が進められています。

イランの研究者Alireza Roshanzamir氏がアルツハイマー型認知症患者170人と健常者99人の発語データをAIに覚えさせたところ、アルツハイマー型認知症患者特有の発語パターンを学習したAIは88.08%の確率で患者と健常者を区別することができました。

これまで人間的な感覚に頼ってきたアルツハイマー型認知症の診断が、AIを活用することにより自動的に、より精度を増して確定できると期待されています。

研究結果については以下の記事で詳しくまとめられています。
認知症のリスクはAIの技術でわかる イラストテストの回答を分析し、約88%の精度

ストレス状態の検知

フレイル(虚弱)状態の高齢者や要介護者には、認知症などの進行を遅らせるためにリハビリや認知トレーニングが欠かせません。

しかし過度なトレーニングによってストレス度合いが高まると、認知状態が低下するというリスクもあります。

AIによって高齢者のストレス状態を検知し、無理のない範囲でトレーニングを行おうとする研究が進められています。

どのような形でAIがストレスレベルを判定しているかなど、研究の詳細は以下の記事によりご確認ください。
トレーニングによる過度なストレスからフレイル高齢者を守るには?ウェアラブルとAIテクノロジー

車椅子の自動操縦

人間の脳波から信号を送って車椅子を動かす開発が進められています。

しかし、車椅子を安全かつスムーズに操縦するためには、脳から出される信号の確実なキャッチに加え、傾斜や段差など路面の状態を複合的に判断しなければいけません。

スペインのAlberto L. Barriusoは、脳波等の信号の検知と車椅子の動作をAIで検知し、脊髄損傷やALS(筋萎縮性側索硬化症)など身体が動かせない方でも操縦できる車椅子のシステム作りに取り組んでいます。

研究が進めば、AIが制御する車椅子を使って寝たきりの要介護者でも自由に出歩ける日が来るかもしれません。
念じるだけで動かせる車椅子 介護におけるAI・BMI応用の最先端

介護状態になる前からAIが活用できる

AIが活用できる可能性があるのは「介護状態になってから」だけではありません。

高齢者が介護状態になる前にAIを活用すれば、そもそも介護を必要とせずにすむかもしれません。

イタリア・トリノ大学は、65歳以上の高齢者100万人以上の健康データをAIに学習させ、対象者がどの程度の確率でフレイルに陥るかを予測する研究を行いました。

その結果、AIは対象者の死亡率を約8割、緊急入院を約7割の精度で予測し、骨折など予測しない健康障害についても7割以上の確率で予測できています。

超高齢化社会の現代では、高齢者に対して要介護状態になるリスクをできるだけ減らし、健康寿命を伸ばしていく策が求められています。

今後もAIが活用の幅を広げられるよう、さらなる研究が求められるところです。
高齢者の虚弱(フレイル)をAIで予測 100万人のデータを活用する最新技術

介護業界でのAI活用事例

現在、介護業界ではAIはどのように活用されているのでしょうか。

具体的な導入事例を一つご紹介します。

全国で高齢者介護事業を展開する株式会社SOYOKAZEは、介護施設利用者の送迎業務支援システム「DRIVEBOSS」を活用しています。

送迎支援サービス機能では、利用者様の住所やお迎え時間帯、車いすの利用有無などの制約条件をあらかじめ入力しておくことで、その日の利用者を自動で各車両に振り分けてくれます。

巡回支援サービス機能では、訪問先ごとの訪問可能時間や車両の積載量などの制約条件を設定しておくと、効率良い巡回計画を策定してくれます。

本システムを導入した株式会社SOYOKAZEでは、DRIVEBOSS導入前の全施設の送迎計画作成の平均時間は30分/1日でしたが、導入後は18分/1日にまで短縮されました。

今までは施設長自ら送迎計画を作成している施設が多くありましたが、DRIVEBOSSによって他の職員も手軽に担当できるようになり、属人化が解消・本来のマネジメント業務に集中できる環境を実現しました。

株式会社SOYOKAZE 様 │ 【デイサービス】ITで送迎計画作成を効率化! DRIVEBOSS | Panasonic

介護のAI活用における課題

介護業界の救世主になるかもしれないAIとはいえ、まだまだ多くの課題が残されています。

最大の問題はデータ不足です。AIが学習するためには大量のデータが必要になりますが、現状では各介護事業所および介護職員の情報が共有されていないため、AIが学べる教材となるデータ自体がほとんど存在していません。

介護現場でのAI・ICT・ロボットの活用の可能性と課題
画像引用:内閣府|規制改革推進会議 医療・介護ワーキング・グループ「介護現場でのAI・ICT・ロボットの活用の可能性と課題」

政府としても「データヘルス改革推進本部」を立ち上げ、健康・医療・介護のビッグデータを連携していく施策を行っています。AIがその能力を十分に発揮するために、日本全体の介護情報を一刻も早くデータ共有できるように期待されます。

参考:厚生労働省|データヘルス改革推進本部

まとめ

今回はAI(人工知能)が介護に役立てられている現状とともに、今後活用の可能性が期待される介護関連のAI研究について解説しました。

最新のテクノロジーはすでに介護にも活用され始めています。時代の進歩を見逃さず、テクノロジーが介護にとってどんな好影響を与えるか常にチェックしておきましょう。

臼井 貴紀
● 監修者情報
臼井 貴紀 Usui Kiki
Hubbit株式会社 代表取締役社長。藤田医科大学客員教員。早稲田大学卒業後、ヤフー株式会社に新卒入社。営業、マーケティング、開発ディレクション、新規事業開発など幅広く担当。その後、ベンチャー企業に転職しAIを活用したMAツールの立ち上げを行った後、Hubbit株式会社を設立。高齢者施設に3ヶ月住み込んで開発したCarebee(ケアビー)は、日本経済新聞、NHKおはよう日本、ABEMA PRIME等に出演。
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