IT活用で介護事業所の課題を解決【8つの事例紹介】

IT活用で介護事業所の課題を解決【8つの事例紹介】

最終更新日 2022.11.21

現在、介護業界は人材不足や事務処理による残業など、様々な課題を抱えており、業務の効率化が急務とされています。 

介護事業所が抱えている課題の一部は、IT技術を使って業務の効率化をはかることで解決の糸口につながると考えられます。

しかしIT技術をどう活用すれば良いのか、具体的にどんな業務が効率化できるのか見当もつかずにお困りの介護事業所も多いでしょう。

そこで今回は、実際に介護事業所の課題をIT化により解決した事例を8例ご紹介します。

これからIT化を検討しようとする介護事業所はぜひ参考にしてください。

介護業界が抱える課題

現在、介護現場は様々な課題や悩みに直面しています。 

事務作業による残業

本記事で紹介している導入事例にもありますが、介護記録の作成や事務作業による残業が問題視されています。 

事務作業に時間をとられることで本来の仕事である高齢者への介護業務に十分な時間が取れず、利用者の満足度も下がりかねません。 

また介護職員も業務に追われることで、疲労や不満が増加し、離職へつながってしまうことも考えられます。 

2025年問題

1947年~1949年の第一次ベビーブームに生まれた、いわゆる団塊の世代は2025年頃に後期高齢者世代に突入します。 

これまで日本経済を支えてきた団塊の世代がいっせいにリタイアして「介護される側」となる可能性があり、社会保障関連の費用負担増加や介護人材の不足が不安視されています。これを2025年問題と言います。 

また、介護職員不足は年を追うごとに深刻化しており、どの都道府県も介護職員の必要数に対して、現状推移シナリオによる介護職員の数は不足していく推測になっています。 

介護職員者数の推移
画像引用:厚生労働省|第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について 別紙2 

参考:厚生労働省|第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数(都道府県別) 

介護職員を悩ます腰痛

腰痛は介護職員の職業病とも呼ばれています。 

介護福祉士の腰痛有訴率は70%を超え、これは看護師の有訴率46~65%や事務職の42~49%と比較しても高い割合であり、介護に携わる方にとって身体介護がいかに負担のかかる仕事であるかがよくわかります。 

参考:日本福祉大学|介護福祉士の腰痛に関する研究─勤務年数4群からの検討─ 

介護業界の課題を解決するIT技術

介護は人間を相手にする究極のアナログ職とも言えますが、それでもさまざまなシーンでIT技術は活用が可能です。

またIT(Information Technology/情報技術)だけでなく、近年ではICT(Information and Communication Technology/情報通信技術)というIT技術を使ったコミュニケーション手段についても活用が期待されています。

ITもICTも、これからの介護業界を支えていく存在になるでしょう。

介護業界が今現在抱えている課題と、ICTに関する説明は以下の記事で詳しく解説しています。
介護におけるICT(情報通信技術)とは何か?効果とメリット・デメリット

ITを活用している介護事業所はまだ少ない

残念ながら、2021年現在の介護業界ではまだITおよびICTが十分に活用できているとは言いがたい状態です。

総務省が行った調査によれば、各業種でICTを利活用している民間業者の割合は保健・医療・福祉関連が最低スコアとなりました。またICT利用割合の低さにともない、企業が成長するための効果も低くなっています。

IT技術によって課題を解決した介護事業者は、まだ少数派だと言えるでしょう。

しかし介護の未来のためには、先駆者の事例を参考にしながら、より多くの介護事業所が後に続かなければいけません。

ITを活用している介護事業所の事例

ここからは実際に、IT技術もしくはICT技術を活用して課題を解決した介護事業所の事例を見ていきましょう。

IT技術の活用方法ごとにご紹介します。

介護記録ソフト導入事例

介護事業所名:介護老人福祉施設豊田一空園

  • 課題:介護記録作成のためのスタッフの残業時間を減らしたい
  • 導入した製品:ケアカルテ
  • 導入効果:紙で管理していた排泄表・入浴表・健康チェック表・事故ヒヤリのExcelシートをペーパーレス化し、どの端末からでも情報にアクセスできるようになり職種間の情報共有が円滑になった。また記録した情報を他の職種スタッフが補足できるようになったため、より記録の精度が増した。
  • 結果:緊急の欠員などが発生した場合を除き、書類作成のための残業がほとんどなくなった。

参考:株式会社ケアコネクトジャパン|ケアカルテ導入事例

介護請求ソフト導入事例

介護事業所名:株式会社おかげ

  • 課題:月末の事務作業のために毎日2時間程度の残業が発生しており、人件費や紙代が大きな負担になっている
  • 導入した製品:Care-wing 介護の翼
  • 導入効果:介護記録からの転記やダブルチェックなしに請求データの作成ができ、業務改善につながった。
  • 結果:残業時間がゼロとなり、休暇も取れるようになった結果、約150万円のコスト削減に成功した。

参考:株式会社ロジック|利用者の声

アシストスーツ導入事例

介護事業所名:社会福祉法人友愛十字会 砧ホーム

  • 課題:職員の腰痛発症によるパフォーマンスやモチベーションの低下
  • 導入した製品:マッスルスーツEvery
  • 導入効果:2台のマッスルスーツを介護チームリーダー4名が排泄介助業務の際に利用したところ、夜勤明けの腰が驚くほど楽になったとの感想を得た。また腰を痛めて休むスタッフが減少した 。
  • 結果:排泄介助業務に使用するだけでなく入浴介助や移乗介助にも利用、かつ清掃・食器洗いなどの間接業務についても利用を検討中。

参考:株式会社PALTEK|マッスルスーツの活用事例

移乗介助ロボット導入事例

介護事業所名:社会福祉法人悠人会 特別養護老人ホームベルファミリア、他 

  • 課題:移乗介助の際にスタッフと要介護者が「密」になる
  • 導入した製品:ROBOHELPER SASUKE
  • 導入効果:下肢の屈曲・拘縮、骨折・脱臼、麻痺等によるADLの低下が認められる要介護者の移乗介助が効率的に行えるようになった(介助量の軽減)。また、人の手による移乗介助で不快や恐怖心を感じる要介護者の精神が安定し、落ち着いて移乗できるようになった(利用者の負担減)。
  • 結果:機器を使用することで削減できたマンパワーが 他の業務にまわせるようになったので、業務効率が向上した。

参考:厚生労働省|介護ロボット活用事例集2020

排泄センサー導入事例

介護事業所名:社会福祉法人聖寿会 特別養護老人ホーム健康生苑

  • 課題:認知症による頻繁な尿意に介護スタッフが対応しきれない
  • 導入した製品:DFree
  • 導入効果:尿のたまり具合と排尿時間の記録をデータ化し、少し早い段階でトイレ誘導を実施することで立ち上がり時の失禁回数が減らせた。また装着前は食後にトイレ誘導を実施していたところ、取得したデータから食事前に変更してトイレ誘導の空振りを防止できた。
  • 結果:オムツの交換回数削減や皮膚トラブルの軽減に成功した。

参考:トリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社|DFree事例紹介

見守りセンサー導入事例

介護事業所名:社会福祉法人東京有隣会 特別養護老人ホーム第2有隣ホーム 

  • 課題:転倒転落事故が防ぎきれない
  • 導入した製品:見守りライフ
  • 導入効果:起き上がり時の通知・端座位の際に通知など要介護者の行動パターンに合わせた通知設定により、動きにいち早く対応できるようになった。事故が発生してもデータを活用し事故原因が探れるようになり、再発防止の策が講じられるようになった。
  • 結果:過去には3ヶ月間で5、6件発生していた転倒事故が1、2件に減少した。

参考:トーテックアメニティ株式会社|見守りライフ導入事例

コミュニケーションロボット導入事例

介護事業所名:住宅型有料老人ホーム内のデイ・サービスにおける事例(名称非公開)

  • 課題:とにかく時間に追われる、常に目が離せず休まる余裕が無い、複数の入居者より同時に依頼され対応に困る
  • 導入した製品:スマイビS
  • 導入効果:スマイビSというロボットのお世話を要介護者に依頼することで、介護者が横目や遠距離から監視でき、同時作業が可能となった。要介護者の「落ち着き」により徘徊が減少し、個室誘導する負担や夜間の覚醒に伴う失禁管理の負担が低減した。
  • 結果:お世話係という役割依頼と癒しにより要介護者の精神が安定した。

参考:株式会社東郷製作所|スマイビSのご利用方法と効果の可能性の事例(施設介護・在宅介護)

音声コミュニケーション支援システム導入事例

介護事業所名:社会福祉法人ひまわり会 永寿園 

  • 課題:レクリエーションや体操などアクティビティの際に声を張り上げなければならないためスタッフの疲労が増す
  • 導入した製品:comuoon mobile 
  • 導入効果:補聴器のように身につけなくても聴こえの支援ができるシステムにより、コミュニケーションがスムーズになって、要介護者の笑顔が増えた。同時にスタッフの負担も大きく軽減した。 
  • 結果:アクティビティが円滑に行えるようになった 

参考:ユニバーサル・サウンドデザイン株式会社|CASE42導入事例

ITを活用する介護事業所には補助金の支援も

上記でご紹介した各IT機器・サービスの利用には費用がかかりますが、補助金や助成金を活用してコストを抑える手立てがあります。

どのような補助金・助成金が利用可能なのか、また最新の補助金情勢については以下の記事も参考にしてください。
【介護】ICT導入に活用できる補助金を国と自治体に分けて紹介(2022年)

まとめ

前述のとおり、介護業界のIT活用はまだまだされていないのが実情です。

しかし逆に考えれば、これからIT技術を活用するようにしていけば、介護事業所の課題を解決して業務効率を上げる余地がまだまだあるということです。

今回ご紹介したIT活用事例を参考にして、自分の事業所ではどんなIT技術が活用できるかを考えてみましょう。

臼井 貴紀
● 監修者情報
臼井 貴紀 Usui Kiki
Hubbit株式会社 代表取締役社長。藤田医科大学客員教員。早稲田大学卒業後、ヤフー株式会社に新卒入社。営業、マーケティング、開発ディレクション、新規事業開発など幅広く担当。その後、ベンチャー企業に転職しAIを活用したMAツールの立ち上げを行った後、Hubbit株式会社を設立。高齢者施設に3ヶ月住み込んで開発したCarebee(ケアビー)は、日本経済新聞、NHKおはよう日本、ABEMA PRIME等に出演。
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