介護ロボットの開発から普及を加速する国家プロジェクトを解説

介護ロボットの開発から普及を加速する国家プロジェクトを解説

最終更新日 2022.11.24

ロボットが介護施設に行き渡る未来は来るでしょうか。

この記事では、介護ロボットの基本と、その普及を促進するために厚生労働省が行っている開発・実証・普及プラットフォームについてご紹介します。後者のプラットフォームは、厚生労働省が委託し、NTTデータ経営研究所が事業を行っています。詳細は後述します。

今知っておきたい介護ロボットの基本

介護ロボットとは

厚生労働省により、介護ロボットは以下のように定義されています。
「ロボット技術が応用され利用者の自立支援や介護者の負担の軽減に役立つ介護機器」(参考:介護ロボットの開発・普及の促進
また、ロボットとは「情報を感知」「判断し」「動作する」3つの要素を持つ知能化した機械システムと定義されています。
利用者(被介護者)の自立支援を行うのは従来では介護者の仕事なので、介護者に代わって仕事をする知能化された機械が介護ロボットだと捉えることができます。

2021年8月現在、介護現場で活躍する介護ロボットの代表的な種類は以下のようなものです(種類名およびイメージは厚生労働省「介護ロボットとは」より引用)。

・移乗支援ロボット:介護者による抱え上げ動作のサポートなどを行うパワーアシスト機器

移乗支援ロボット
移乗支援ロボットのイメージ

・移動支援ロボット:被介護者の移動や外出をサポートする機器

移動支援ロボット
移動支援ロボットのイメージ

・排泄支援ロボット:トイレ内での下衣着脱等を支援する機器

排泄支援ロボット
排泄支援ロボットのイメージ

・見守りロボット:転倒検知や外部通信などの機能を備えた、高齢者の安全な生活を守るための機器

見守りロボットのイメージ
見守りロボットのイメージ

このほかにもコミュニケーションロボット(またはソーシャルロボット)と呼ばれる機器も近年(執筆時2021年8月)登場しています。被介護者のうつ病や認知症を改善することが主な目的です。コミュニケーションロボットに関しては上記の4種類ほどは導入されていませんが、導入のための実証実験が精力的に進められています。
(本サイトでもいくつか事例をご紹介しています。例:新しい介護ロボット「ZORA」2年にわたる実証実験の結果

介護ロボットの探し方

「世の中にはどんな介護ロボットがあるんだろう」という時に役に立つ、介護ロボット専門の検索サイトを2点ピックアップしてみました。

介護ロボットポータルサイト

URL:robotcare.jp/jp/home/index.php

介護ロボットポータルサイトトップページ
介護ロボットポータルサイトトップページ

国立研究開発法人 産業技術総合研究所を中心としたコンソーシアムが運営しているサイトです。

上述したロボットタイプに加えて「入浴支援」や「介護業務支援」などを含めた様々な介護ロボットを、「メーカー名」「製品名」「イメージ画像」「開発・製品化状況」と共に一覧できます。
また、各ロボットタイプの特徴を説明するページや、導入事例を紹介するページもあります。

経済産業省主体のロボット介護機器開発事業に関する情報をまとめているため、同省が認めた開発プロジェクト・製品を一覧できるのが特徴です。一方、同省が選定した以外の開発プロジェクトや製品については掲載されていません。

なお平成28年度より、日本医療研究開発機構(AMED)の監修の下で日本ロボット工業会が管理しています。

介護ロボットONLINE

URL:kaigorobot-online.com/

介護ロボットONLINEトップメッセージ
介護ロボットONLINEトップメッセージ

株式会社ウェルクスが運営しているサイトです。同社は保育・介護関連のポータルサイトを複数運営しています。

本記事で説明したロボットタイプである「移乗介助(または移乗支援)ロボット」「排泄支援ロボット」「コミュニケーションロボット」のほかに、「見守りロボット」「その他の介護ロボット」を掲載しています。

また、導入ガイドや補助金の情報も掲載しています。

介護ロボット開発・普及促進の必要性

介護ロボットが注目されている背景を改めて考えてみましょう。
世界の先進国を中心に、高齢化は社会問題となっています。中でも日本は、他に類を見ないほどの速さで高齢化が進んでいます。そのため、介護人材が足らなくなっています。
介護人材を増やすことが求められている一方で、介護人材ひとりひとりの力を上手く使う手段が必要です。そんな中、介護ロボットは、現場の負担を軽減するためのツールとして有望視されています。
ただし、介護現場のニーズは多様なため、介護ロボットの適材適所を実現するには工夫を施さなければいけません。市場に存在しない場合は新しく開発を行い、新しい介護ロボットは環境で活躍するかどうかの実証実験を行う必要があります。また既存の介護ロボットを含めて、それぞれ求められている現場に普及させる努力も要ります。
そのため国は自ら、開発から普及までを支援するプラットフォーム事業を推し進めています。

介護ロボットの開発・実証・普及のプラットフォーム

全国的に見て、適切な介護ロボットを開発し適切な場所に普及させるために、厚生労働省は「介護ロボットの開発・実証・普及のプラットフォーム構築業務等一式」という事業を2020年3月に公募しました(参考:入札公告(介護ロボットの開発・実証・普及のプラットフォーム構築業務等一式))。その結果、株式会社NTTデータ経営研究所(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:柳 圭一郎氏)が委託を受ける運びとなったようです。

下記の文献を参照しながら、事業内容についてご紹介します。

文献の情報
著者:足立圭司、柴田創一郎
タイトル:介護ロボットの開発・実証・普及のプラットフォーム
URL:www.kaigo-pf.com/media/platform_210405.pdf
掲載誌:日本生活支援工学会誌(Vol.20)

上記文献を書いたのは事業の中核的な役割を担う足立圭司氏です。本文において同氏は、プラットフォームの概要と、今後の展望について説明しています。

プラットフォームの概要

文献によるとプラットフォームは、以下の3つの要素から構成されるようです。

  • 相談窓口:介護現場及び介護ロボット開発企業からの相談に応える全国11ヶ所の相談窓口
  • リビングラボ:開発企業の介護ロボット開発及び介護現場での実証を支援する全国 6 か所の拠点
  • 実証フィールド:200以上の実証協力施設

下図はプラットフォーム全体像のイメージです。

介護ロボットの開発・実証・普及のプラットフォームの全体像
介護ロボットの開発・実証・普及のプラットフォームの全体像(文献より引用)

それぞれの要素を簡単に解説します。

相談窓口

まずプラットフォームの入り口としての役割を担う相談窓口について説明します。
介護ロボット開発企業にとっては、助成金等の情報提供や、内容に合った開発拠点を紹介してもらえる場所です。そして介護現場にとっては、介護ロボットの導入や活用についての方法を相談できる場所です。

相談窓口は、北海道・青森・岩手・新潟・埼玉・横浜・富山・愛知・大阪・兵庫・徳島・広島・北九州・鹿児島の計11ヶ所に配置されています。人口の比較的少ない都道府県にも存在することが特徴です。Webから自分の相談したい窓口を選択して相談内容を送ることができるようです

これまでの相談対応の事例として、介護施設から「導入した介護ロボットが使いにくいため、介護ロボットを改善して欲しい」という内容が持ち込まれたと言います。その際は窓口のスタッフが相談者に対して提案内容を渡し、その後も週に1回のペースで途中経過を見ながら相談に乗り続けたそうです。さらに相談終了後の効果測定を重要視し、アンケートを配っているそうです。

リビングラボ

このプラットフォームにおけるリビングラボは、介護ロボットの開発・実証を行うための模擬生活空間や評価機器等を有する施設です。

既存の研究拠点がリビングラボの役割を担う形になっています。SOMPO、産総研、九工大、長寿研、藤田医科大、善光会の各研究施設が本事業の始動に伴って、リビングラボとして厚生労働省に選定されました。それぞれの強みを発揮することが期待されています。

リビングラボが有する機能イメージ
リビングラボが有する機能イメージ(文献より引用)

もともとリビングラボとは、オープンイノベーションエコシステムを実現する研究上の概念用語です。オープンイノベーションエコシステムとは、難しい社会課題を解決するために、利用者と提供者が共に実装と評価を重ねながらサービスや商品を生み出す仕組みのことです。

実証フィールド

最後に、開発中の介護ロボットにおける完成度や課題などを確かめるための場所が実証フィールドです。施設(老人ホーム)系、通所(デイサービス)系、訪問系の施設や事業者が200以上登録されています。

リビングラボとの役割の違いは、実証フィールドは介護ロボットの導入先そのものだという点です。開発した介護ロボットが一見、出来がよくても、環境に適応しているかどうかは試してみないとわかりません。例えば、介護施設の造りとして、バリアフリーのために段差の代わりに傾斜が採用されることが多いですが、そのことを失念し傾斜に弱い設計の介護ロボットを作ってしまった場合は、実証で初めて弱点が浮き彫りになります。

2021年8月現在、実証フィールドでの介護ロボットの実証実験事例は報告されていませんが、本プラットフォーム事業全体の進捗は専用の公式ホームページにて随時更新されていきます。

まとめ

本記事では、介護ロボットの基本と、開発・実証・普及プラットフォームについての紹介を行いました。

後半で紹介したプラットフォームは、開発企業だけでなく介護現場も介護ロボットに関わる相談ができるため、何かあればぜひ積極的に使ってみてください。相談窓口での体験展示や使用貸出なども行っているそうです。

この記事が、介護ロボットに少しでも関心のある人にとって役に立つあるいは興味深いものであれば幸いです。

それでは次の記事でお会いしましょう。

臼井 貴紀
● 監修者情報
臼井 貴紀 Usui Kiki
Hubbit株式会社 代表取締役社長。藤田医科大学客員教員。早稲田大学卒業後、ヤフー株式会社に新卒入社。営業、マーケティング、開発ディレクション、新規事業開発など幅広く担当。その後、ベンチャー企業に転職しAIを活用したMAツールの立ち上げを行った後、Hubbit株式会社を設立。高齢者施設に3ヶ月住み込んで開発したCarebee(ケアビー)は、日本経済新聞、NHKおはよう日本、ABEMA PRIME等に出演。
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