【芙蓉開発】だれでも使えるAIで、当たり前を作る。【前田俊輔】(介護AI・介護DXインタビュー)前編

【芙蓉開発】だれでも使えるAIで、当たり前を作る。【前田俊輔】(介護AI・介護DXインタビュー)前編

最終更新日 2021.08.31

経験と座学のギャップを、ICTで補う

ーそもそもどういった課題感があって、サービスを始められたのですか?

私は今は医学部の大学院に通っていますが、もともとは医療出身ではありません。ただ、病院の中で、いわゆる医学書とは違う世界があることに気づいたのです。

例えば、最近でいえばコロナの発熱の目安(37.5度)を厚生労働省が取り下げました。
高齢者の場合は平時の体温が低い方が増えるので37.5度では気づいた時には本人にとって高熱です。現場の看護師たちは、体温や血圧を測ったら、手でグラフを書いて、その人なりの傾向をみているので、そのようなことを知っています。彼らは、例えば咳が出たらカルテをひっくり返して、合併症があれば、その人なりの咳の出方があるかどうかを見ています。その人なりのバイタルと症状の出方をみるということですね。

※バイタル・・・患者の生命に関する基本情報。心拍数、呼吸数、血圧、体温の4つを指すことが多い。

高齢者の非典型的な症状の出方に対して、現場は勘や経験でそれに対応しています。医学書にはそれは載っていないんですよ。症候学という「こういう症候がある」というのは存在しますが、いわゆる高齢者の診断学というのはまだ確立していないのが現状なんです。世界的にも高齢者の診断に関する論文は少ないです。

とにかく、高齢者に関しては現場が属人的に傾向を見たりしている。私はそれをそのままICT化しました。傾向でみたものに対して、統計学とEWS(Early warning system、早期警報システム)をくっつけたもの、いわゆるAIのひとつですね、それで誰でも個人ごとの異常を検出できるシステムにしました。
物理的にはこうしないと高齢者の早期発見はできないはずだと考えています。結果も今出てきています。

ーでは、座学の分野ですらまだ分かっていないことを、やってしまおうというわけですね。

ギリシャ時代から、「高齢者は一般とは違う」と言われて、現場の看護師たちは勘や経験でやっていました。看護師は現場でやれています。それを誰でも、属人的ではなく、AIでできるようにしてやればと。たとえば介護施設や自宅でも、どこでもやれるんじゃないか、ということでやっています。当たり前に行われるべきだと思うことを、自らできるようにしています

ちなみに、呪術的ではない経験的な医学を始めた「医学の父」ヒポクラテスは古代ギリシャの人物です。

個人データ統計のトリアージに従わない方がリスク

ーコロナ前からやられていたとお伺いしていますが

2008年ですね。

ーかなり先見の明をもって、やっていらっしゃいますね。ここまでの成果はいかがですか?

異常検知すると、スコア配点表に配点されて、トリアージ(優先度)が赤・黄・緑で表示されるんですね。「赤は、医者に相談してください。黄色は観察密度を上げて、症状次第で相談してください。緑は症状が出てない限りは大丈夫」といったところです。バイタルサインをテーラーメイド(個人別)に、かつ複数のバイタルを総合的に解釈すれば、患者の状態はかなり分かるものなのです。それをAIに置き換えたのですが、トリアージ:赤の医療介入に対する精度は8割を超えており、ここだけ見ると医師に負けず劣らずです。
こうなると、逆にこのトリアージに従わない方がリスクがあると思います。赤だったら単純にお医者さんに相談して、黄色だったら看護師が注意する。それで、入院数がかなり減っているんですよ。それが一番の実績ですね。

※トリアージ・・・同時に多数の患者がいる際に、緊急度にしたがって、手当の優先順位をつけること。

ーコロナ禍でも、事業が進んだのですね。

37.5度(という一律の発熱基準)を政府が撤回しましたが、我々のやり方(一律の基準ではなく個人ごとの統計)が我々だけが言っているものではなくなって、厚生労働省も認めるものになった。これが一番大きいですね。一律の発熱基準の代わりに統計を使うことは、ひとつの正解になると思います。これが唯一の正解とは言いませんけど「こういうやり方もありだね」と言ってくれたと解釈しています。

ーこの取り組みは、独自のものなのですか?

絶対基準(一律の基準を設ける方法)で行っているところはありますが、テーラーメイド(個人別)に注目して、統計データより個別アラートを出している取り組みは、まだ僅かです。

ー個人に着目して、ICTでやっているのがユニークなポイントなんですね。

■トピックのまとめ

  • 現場の医者のような属人的な高齢者ケアを介護施設や在宅で行えるようにしたい
  • バイタルデータをもとに状態悪化を早期発見するシステムを開発

▶︎▶︎NEXT 「技術があるから役に立つ」ではない