「科学的介護」とは何か。LIFEにどう対応するか(解説動画もあり)

「科学的介護」とは何か。LIFEにどう対応するか(解説動画もあり)

最終更新日 2022.11.24

この記事は、科学的介護と、LIFE(科学的介護システム)についての解説コンテンツです。また、科学的介護に関連する最近の研究も紹介します。

多くの人が直面している課題として、介護報酬の算定ルール変更への対応があるかと思います。
LIFE(科学的介護システム)を用いた厚生労働省へのデータ提出等が要件である加算が2021年2月に発表されました。その内容をよく理解し、迅速かつ適切に対応することが求められています。
対応を行う上では、そのコンセプトから解釈することをお勧めします。

また厚生労働省が発表した資料によると、”介護分野では、個々の利用者等の様々なニーズや価値判断が存在”します。
LIFE関連の課題に直面していない方も、ぜひ一緒に考えてみましょう。

※YouTubeチャンネル「NDSTV」の科学的介護・LIFE関連動画とのタイアップでお届けします。お楽しみください。

科学的介護とは何か

厚生労働省が公表している資料(「科学的介護とは」)によると、科学的介護はズバリ、科学的裏付けに基づく介護のことだそうです。
では、科学的裏付けとは何なのでしょうか。

科学的:エビデンスを大事にする姿勢

科学において重要な要素は「エビデンス」です。
エビデンスとは、とある仮説を検証したり、新たな仮説を立てたりするための”証拠”を意味します。実験や集計、計算などによって得られるデータがもとになっています。

テレビで討論番組を見るのが好きな方は、政治家やコメンテーターの口から聞くことも時々あると思います。感染症対策などについて議論する際には特に多いかもしれません。

このエビデンスこそが、前述した「科学的裏付け」なのですね。

科学的介護は、2017年の未来投資会議で広く知られる言葉になりました。その際の配布資料には、科学的介護を説明する上で便利な図が示されています。

NDSTV(1:04)より引用。

ある介護サービスの有効性が科学的に分析・提示された状態で、それが提供される様子が示されています。

要するに科学的介護とは、「ケアの効果を蓄積したデータを基に科学的に検証しながら、この先の介護をよりよくしていこう」ということのようですね。

ちなみに外国産の言葉ではありません。高齢化先進国の日本が率先して事例を作り上げていく気概が感じられる気もします。

また、アカデミックな考え方が政府の方針に採用された背景には、介護保険法の改正があるのは勿論ですが、さらにその背景に未曾有の少子高齢化社会の到来があるかと思います。未曾有の状況に対して立ち向かう姿勢こそ科学的態度であるべきだということかもしれません。

LIFE(科学的介護システム)

LIFEを知らない方もいるかもしれません。LIFEとは、下記2点の機能を持つプラットフォーム・システムです。

  • 全国の介護施設・事業所において作成・記録されている利用者の状態やケアの実績等(計画書等の様式等)のデータを収集・蓄積
  • 蓄積したデータに基づくフィードバック情報を計画書等の改善に活かす

LIFEは、次の言葉の略です。

Long-term care (介護)
Information system (情報システム)
For (〜のための)
Evidence (エビデンス/証拠)

最後の「エビデンス」は、前述したように「科学的な裏付け」を意味します。政府の方針を示すキーワードを含んだシステムの名前になっていますね。

LIFEにどう対応するか

下記では、LIFEへの対応について、YouTubeチャンネルNDSTVの動画を引用しながら触れさせていただきます。

従来、科学的介護のためには下記の4つのデータベースが活用されてきました。

NDSTV(1:34)より引用。

このうち、「VISIT(通所・訪問リハビリの質の評価データ等)」と「CHASE(高齢者の状態・ケア内容等の情報)」が統合されたデータベースが新たにLIFEと呼ばれています。

NDSTV(1:51)より引用。

データベースというだけあって、入力項目はかなり多いようです。必須831項目、全1792項目。

このメディアでよく紹介している「機械学習(AI分野の技術)」を将来的に活用することを見越したボリュームになっているのかもしれません。

NDSTV(1:57)より引用。

これらのデータをCSV形式のファイルで提出します。「CSV形式なんて聞き慣れない」と思うかもしれませんが、ExcelやGoogleスプレッドシートなどの表計算ソフトで表データを出力する際によく使うファイル形式のひとつです。

NDSTV(2:10)より引用。

あるいは上画像にあるように、LIFEの管理画面(*)から直接入力することもできるようですね。ただし直接入力するよりも、別のソフトで整理したデータファイルをアップロードする方が簡便だと予想されます。

(*LIFEの管理画面はこちら

科学的介護に関連する日本の研究

前述したように、科学的介護は国内でできた言葉です。そのため、科学的介護をキーワードとして取り上げている研究は国内のものがほとんどのようです。研究テーマとしても世界に対してリーダーシップをとれる可能性のある分野なので、注目したいと思います。

科学的介護をキーワードに発表されている研究の中から興味深いものを2つ簡単に紹介します。

詳細を解説してほしいニーズがあれば、Twitterなどからお寄せください。


高齢者の表情を分析する研究

著者:平山 孝輔, 佐伯 幸郎, 中村 匡秀, 安田 清
タイトル:高齢者ケアの科学的な評価を目的としたユーザ定義の顔特徴量の測定
URL:cs27.org/achieve/data/pdf/1390.pdf
発表年:2020年

  • ケアによる感情の変化を定量的に評価するために、エビデンスとしての「表情データ」を取得したいと考えた
  • 映像から自動的に表情(顔の特徴量)を読み取る試みがなされた
  • 従来よりも更に微細な表情変化を観測することに成功した

上記研究の面白いポイントは、この技術は「すごい分析」ではなく「すごい観測」という点ですね。


介護技術を客観的に評価する研究

著者:杉浦 令人, 和田 邦孝, 荒井 友章, 山本 圭一, 前田 則弘, 田村 亮介, 土屋 裕規, 杉浦 徹, 和田 弘
タイトル:介護士育成における客観的介護技術評価ツールの開発と信頼性分析
URL:doi.org/10.3143/geriatrics.54.584
発表年:2017年

  • 看護やリハビリの臨床能力と同様に、介護技術の客観的な評価ツールが必要である
  • 客観的介護技術評価ツール(objective care skill assessment tool:OCSA-t)が開発された
  • 研修および試験を通してツールの信頼性が分析され、概ね良好であった

技術の継承はどの業界でも重要な課題のため、他分野への応用が期待されます。この報告のように良好な結果が出ているのは注目に値すると感じました。

※関連する紹介:優しさを伝える介護スキルの習熟度を「AIで評価する」手法を京都大学研究者らが開発


アカデミックな世界と現実の世界は遠いものだと思われてしまうこともありますが、その距離感は分野によってさまざまです。ケアに関わる諸問題に関しては、科学的な研究が参考になると思ってよいかもしれません。

動画でも確認してみよう

最後に、この記事で引用させていただいた動画を置いておきます。5分程度で科学的介護・LIFEの概要についてまとめられています。

科学的態度のススメ

何かを判断するために提供元を明らかにしながらデータを集めることは、色々な分野で求められていることですが、介護の分野ではこれから需要が飛躍的に伸びそうだと考えられます。

このような流れの中での、このサイト(AIケアラボ)の発足には運命的なものがあるかもしれません。ここでは、ケア分野の最新情報をお伝えする際に、かならず科学論文などの「エビデンスに基づいた資料」を明示しています。
福祉や医療の分野では「人の健康」がテーマになるため、情報の確かさがより重要なためです。

まずは購読するメディアを選ぶところから、科学的態度を生活に取り入れてみてはいかがでしょうか。

臼井 貴紀
● 監修者情報
臼井 貴紀 Usui Kiki
Hubbit株式会社 代表取締役社長。藤田医科大学客員教員。早稲田大学卒業後、ヤフー株式会社に新卒入社。営業、マーケティング、開発ディレクション、新規事業開発など幅広く担当。その後、ベンチャー企業に転職しAIを活用したMAツールの立ち上げを行った後、Hubbit株式会社を設立。高齢者施設に3ヶ月住み込んで開発したCarebee(ケアビー)は、日本経済新聞、NHKおはよう日本、ABEMA PRIME等に出演。
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