外国の介護DX〜スウェーデン編~<br>介護現場の意識調査から学ぼう

外国の介護DX〜スウェーデン編~
介護現場の意識調査から学ぼう

最終更新日 2022.11.15

昨今、介護領域においても、DX(デジタルトランスフォーメーション、digital transformation)という言葉が、海外含め、非常に取り沙汰されています。
非効率な現場を働きやすい環境へと変化させる際に、デジタル技術を活用することを意味します。

小さな例としては、ファックスではなくメールで書類を送るようにする。
最近ではコロナ禍の影響を受け、オンライン会議やビデオ通話なども普及し、対面で合わなくても顔を見て話せるようになりました。


介護業界でも、超少子高齢化問題を背景に、深刻化する人材不足・アナログな労働環境などの課題を抱えていますが、介護のDX化によって、業務の効率化や介護者の負担軽減などの効果が期待されております。

しかし、介護現場においては、通常の会社組織とは異なり、デジタルテクノロジーのプロフェッショナルが多く雇用されている状況は少ないでしょう。
その為、介護を主とした仕事を日常的に行なっている職員一人ひとりが、新しく導入されるデジタルソリューションに対応できるかどうか、また経営者が現場スタッフの声にしっかり耳を傾けることが介護のDX化を進める上では重要なポイントになります。


今日は、スウェーデンで行われたDXに対する介護現場の意識調査の事例を参考に、現場職員の傾向や感じ方について、見てみましょう。


この記事の要点

  1. スウェーデンでも、高齢化が進んでいるため、福祉技術(介護テクノロジー)が研究されている
  2. 介護従事者はDX化に対してどう感じているか、調査が行われた
  3. 性別や年齢、立場によって、感じ方は異なっていたが、介護職員の多くは、介護の現場に対する新しいテクノロジーの導入を前向きと捉えていた
  4. テクノロジーの導入時には、経営層だけで判断するのではなく、現場スタッフとの対話や検証を重ねることも必要である

同国のオレブロ大学で福祉技術を研究しているKatarina Baudinは、詳細な質問項目からなるアンケートの回答結果をもとに、統計学的な分析を行い、傾向を導きました。

★この記事で参照している科学論文の情報

著者:Katarina Baudin, Christine Gustafsson, Susanne Frennert
タイトル:Views of Swedish Elder Care Personnel on Ongoing Digital Transformation: Cross-Sectional Study
URL:doi:10.2196/15450

スウェーデン 地方における介護DXの実態

日本だけでなく、先進諸国も高齢化に悩まされています。課題解決のためにテクノロジーに目を向けるのは自然な流れですが、北欧はそのスピードが速いようです。特にスウェーデンは、諸外国と比べて税率が高いことが有名です。そのため、福祉に投資する準備が整っている国の一つかもしれません。

同国にて、地方レベルで活用が進んでいる介護テクノロジーは、以下のようなものがあります。

  • 緊急時に使用するアラーム
  • 対面訪問をデジタルに代えるサービス
  • 乾燥機能を備えたハイテクなトイレ
  • 鍵を無くす心配のない、デジタル鍵サービス
  • 家庭用ゲーム機でのリハビリメニュー
  • 夜間のカメラ監視
  • 薬の服用リマインダー

このようなラインナップが生活の中で当たり前に享受できる状態になったら、高齢者にとってはかなり暮らしやすい環境だと言えますね。

DXに関するWebアンケート

介護テクノロジーの利用が推進されるには、リーダーシップやマネジメントが重要視されています。明確な目標やインセンティブ(報酬体系)、適切なインフラ、機能する組織構造が重要になります。

しかし、こうした技術を実装するために必要な情報はこれだけで十分なのでしょうか?Katarina Baudinたち研究者は、頭を捻りました。
導入される施設の、職員の性別、年齢、あるいは仕事の立場・経験に左右される部分も明らかにしておかなくてはならない。そう考えました。

そこで研究者たちは、介護施設で働くさまざまな属性の人に対して、Webアンケートを実施しました。アンケートが正常に機能するように、匿名性は保証され、また、アンケート回答は任意でした。

Webアンケート・イメージ図

質問項目は、下記のようなカテゴリーのものでした。

  • 現場におけるDXのスピードについての感じ方
  • 介護テクノロジーに関して意思決定する機会はあるか
  • 職場で介護テクノロジーの実験や調査を行っているか
  • テクノロジーソリューションを導入する立場にあるか
  • 自分自身について

さあ、結果はどうだったでしょうか。

分析の結果

(ここでは、アンケート結果を研究者が分析した内容で、特徴が際立っているものを紹介します。)

スピードへの感じ方

現場のDXのスピードに関して、男女で比べた時に、感じ方の違いはなかったようです。
しかし18〜24歳の職員は「遅すぎる」と回答し、一方、65〜74歳の職員は「適切なペース」だと回答しました。
年齢による感じ方の違いが出るのは、大方の予想通りではないでしょうか。

導入されているテクノロジーへの感じ方

職種別でみてみると、介護施設で働くITスタッフの約半数が、「自分たちの職場はテクノロジーを適切に使うことができていない」と回答したようです。

テクノロジーへの積極性について

テクノロジーに対する態度には、男女差があったようです。
女性の多くは「他の人達が使うようになったら、新しいテクノロジーを使う」と回答したのに対し、男性の多くは、「新しいテクノロジーが好きだから、テクノロジーを使う」と回答しました。

しかし男女に関係なく、若い層(18〜24歳)の職員は、「新しいテクノロジーを他の人よりも先に使っている」という自負を持っている人が多かったようです。

このように男女で受け取る印象が違うかもしれないので、新しい技術を導入する際にはこの違いにも留意した配慮が必要かもしれませんね。

テクノロジー導入時の検証について

現場の職員と経営者層との関係性に関する示唆も、アンケート結果の分析から得られました。
職員は、経営陣から「新しいテクノロジーの導入がしたい」という旨の指示を受けるものの、実際に経営陣とともに、新しいテクノロジーに関する試用を行った記憶がないそうです。
つまり経営陣は、イメージ先行で、テクノロジーの購入を決めてしまっていることを意味します。

経営陣より実験の指示がないため、職員も、特にテクノロジーの検証を重ねることはなく、最適化されないまま、現場に大きい負担をかける結果につながっているようです。


アンケート結果の分析として、介護職員の多くは、介護現場に対する新しいテクノロジーの導入を前向きに考えているようでした。
そして平均的には、DXの進捗を「遅い」と捉えている人数が多い結果となりました。
これは介護に携わる人間が、肌感として、介護業界における新しい技術の登場への期待感が高いことを示しています。

スウェーデンの調査結果を参考に

このアンケートの回答者の6割強が、女性の職員でした。
日本国内においても、介護職の正規職員のうち、女性は7割強になります。(厚生労働省「介護分野の現状等について」より)。さらに年齢層においては、女性は40代以上の割合が多く、男性は40代未満が主流となります。

先述した通り、女性の多くはテクノロジーをやや冷静に捉えて、「他の人が使っていたら使う」という姿勢をとる傾向にあります。また、年齢における感じ方の違いは、若い人ほど、「DXのスピードが遅い」と感じていました。

今回のスウェーデンでの調査結果のパターンを、自分たちの施設に置き換えてイメージし、現場職員の傾向や感じ方を配慮することで、現場のDXをスムーズに進められるヒントが見えてくるかも知れませんね。

まとめ

テクノロジーの導入時には、経営層だけで判断するのではなく、現場スタッフとの対話や検証を重ねることも必要なのでしょう。
そして、性別や年齢によって、テクノロジーに対する受け入れ方も違うからこそ、一人の声だけではなく、現場のそれぞれの声に耳を傾けることが大切になります。
現場スタッフの中には、意外とテクノロジーの導入を望んでいる人達も多いかも知れません。

現場の声を聴く経営層が増えることで、結果としてDXが進み、業界全体の負担が減ることに繋がることを期待します。

みんなでDXを進めていくイメージ図

今回はスウェーデンの事例を参考にしたので、日本独自の状況も考えながら、イメージしてみてくださいね!

臼井 貴紀
● 監修者情報
臼井 貴紀 Usui Kiki
Hubbit株式会社 代表取締役社長。藤田医科大学客員教員。早稲田大学卒業後、ヤフー株式会社に新卒入社。営業、マーケティング、開発ディレクション、新規事業開発など幅広く担当。その後、ベンチャー企業に転職しAIを活用したMAツールの立ち上げを行った後、Hubbit株式会社を設立。高齢者施設に3ヶ月住み込んで開発したCarebee(ケアビー)は、日本経済新聞、NHKおはよう日本、ABEMA PRIME等に出演。
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