外国の介護DX〜スウェーデン介護現場の意識調査〜

外国の介護DX〜スウェーデン介護現場の意識調査〜

最終更新日 2021.07.20

DX(デジタルトランスフォーメーション、digital transformation)という言葉が、昨今、非常に取り沙汰されています。
非効率な現場を働きやすい環境へと変化させる際に、デジタル技術を活用することを意味します。
小さな例としては、ファックスではなくメールで書類を送るようにする、など。
もう少し進んだものとしては、ハンコではなく、ソフトによって契約を行うようにする、などが有名です。

日本としては、少子高齢化に伴う労働力の低下などを受けて、各現場のDXを進めようとしています。その関連で「デジタル庁」という組織も発足しました。

ちなみに、国外においては、AppleやAmazon、Facebook、Googleなどデジタルテック企業が急速に業績を伸ばして力を持っていることも、日本とは少しギャップのある状況と言えます。

さて、現場レベルでDXを推進しようと考えたとき、政府からのトップダウンで全ての方針を細かく検討・決定できるかと言えば、そうでもないかと思います。特に、介護現場においては、通常の会社組織とは異なり、デジタルテクノロジーのプロフェッショナルが多く雇用されている状況でもないことでしょう。
つまり、介護を主とした仕事を日常的に行なっている職員一人一人が、新しく導入されるデジタルソリューションに対応できるかどうかが重要なポイントになります。

そこで、日本と同様に、後追い組でありながら、DXが進んでいる国を参考にするのはどうでしょうか。そのような国で、現場レベルでDXに対してどういう反応が起きるのかを知り、自国のパターンをイメージしておけば、配慮に欠けない進め方ができるかもしれません。

今日は、スウェーデンを事例としてみましょう。パンデミック時の対応が独自的な発想で、かなり話題になりましたね。


この記事の要点

  1. スウェーデンでも、高齢化が進んでいるため、福祉技術(介護技術)が研究されている。
  2. 地方の介護従事者は、DXに対してどう感じているか、調査が行われた。
  3. 性別や年齢、立場によって、感じ方が異なっていることがわかった。

同国のオレブロ大学で福祉技術を研究しているKatarina Baudinは、詳細な質問項目からなるアンケートの回答結果をもとに、統計学的な分析を行い、傾向を導きました。

今回はその研究報告をもとに、考えてみましょう。

★この記事で参照している科学論文の情報

著者:Katarina Baudin, Christine Gustafsson, Susanne Frennert
タイトル:Views of Swedish Elder Care Personnel on Ongoing Digital Transformation: Cross-Sectional Study
URL:doi:10.2196/15450

ハイレベルな地方介護

日本だけでなく、先進諸国は高齢化に悩まされています。課題の解決のためにテクノロジーに目を向けるのは自然な流れですが、北欧はそのスピードがはやいようです。今回参考にするのはスウェーデンです。

なお、スウェーデンは諸外国と比べて税率が高いことが有名です。そのため、福祉に投資する準備が整っている国の一つかもしれません。

同国にて、地方レベルで活用が進んでいる介護技術は、以下のようなものがあるそうです。

  • 緊急時に使用するアラーム
  • 対面訪問をデジタルに代えるサービス
  • 乾燥機能を備えたハイテクなトイレ
  • 鍵を無くす心配のない、デジタル鍵サービス
  • 家庭用ゲーム機でのリハビリメニュー
  • 夜間のカメラ監視
  • 薬の服用リマインダー

このようなラインナップが生活の中で当たり前に享受できる状態になったら、高齢者にとってはかなり暮らしやすい環境だと言えますね。

福祉技術の利用が推進されるには、リーダーシップやマネジメントが重要視されています。明確な目標やインセンティブ(報酬体系)、適切なインフラ、機能する組織構造が重要だと言われており、誰しもそれに反対するものはいません。

しかし、こうした技術を実装するために必要な情報はこれだけで十分なのでしょうか?Katarina Baudinたち研究者は、頭を捻りました。

職員の性別や、年齢、あるいは仕事の立場・経験に左右される部分も明らかにしておかなくはならない。そう考えました。

数百件のWebアンケート

介護施設で働く、さまざまな属性の人に対して、Webアンケートが配布されました。アンケートが正常に機能するように、匿名性は保証され、また、アンケート回答は任意でした。

質問項目は、下記のようなカテゴリーのものでした。

  • DXのスピードについての感じ方
  • 福祉技術に関して意思決定する機会はあるか
  • 職場で福祉技術の実験や調査を行っているか
  • テクノロジーソリューションを導入する立場にあるか
  • 自分自身について

アンケートは作成されてから実際に配布されるまでに、パイロットユーザーによってテストされ、読みやすさや、意味の明確さなどについて改良が加えられたようです。

さあ、結果はどうだったでしょうか。

分析の結果

上記のアンケートを研究者が分析した内容で、特に特徴が際立っているものを紹介します。

スピードへの感じ方

現場のDXのスピードに関して、男女で比べた時に、感じ方の違いはなかったようです。

しかし18〜24歳の職員は「遅すぎる」と回答し、一方、65〜74歳の職員は「適切なペース」だと回答しました。

年齢による感じ方の違いが出るのは、大方の予想通りではないでしょうか。

テクノロジーの使い方への感じ方

さらに、職種別でみてみると、ITスタッフの約半数が、「自分たちの職場はテクノロジーを適切に使うことができていない」と回答したようです。

テクノロジーへの積極性について

テクノロジーに対する態度には、男女差があったようです。

女性の多くは「他の人達が使うようになったら新しいテクノロジーを使う」と回答したのに対し、男性の多くは、「新しいテクノロジーが好きだから、テクノロジーを使う」と回答したそうです。

しかし男女に関係なく、若い層(18〜24歳)の職員は、「新しいテクノロジーを他の人よりも先に使っている」という自負を持っている人が多かったようです。

このように男女で受け取る印象が違うかもしれないので、新しい技術を導入する際にはこの違いにも留意した配慮が良いかもしれませんね。

今後のDXに対して、考慮すべきこと

結果はいろいろと出ました。しかし概して、介護職員の多くは、介護の現場に対する新しいテクノロジーの導入を前向きに考えているようでした。

そして平均的には、DXの進捗を「遅い」と捉えている人数が多いようでした。

これは、介護に携わる人間が、肌感として、この業界における新しい技術の登場への期待感が高いと感じていることを示しています。

経営者は現場とともに検討を重ねるべし

現場の職員と経営者層との関係性に関する示唆も、アンケート結果の分析から得られたようです。

職員は、経営陣から「新しいテクノロジーの導入がしたい」という旨の指示を受けるものの、実際に経営陣とともに新しいテクノロジーに関する試用を行った記憶がないそうです。

つまり、経営陣は、イメージ先行で、テクノロジーの購入を決めてしまっていることを意味します。

経営陣より実験の命令がないため、職員も、特にテクノロジーの検証を重ねることはないとのことです。その結果、最適化されないまま、現場に大きい負担をかける結果につながっているようです。

現場の声を考慮すれば、空気感が変わる可能性がある

このアンケートの回答者の6割強が、女性の職員だったそうです。先述した通り、女性の多くはテクノロジーをやや冷静に捉えて、「他の人が使っていたら使う」という姿勢をとる傾向にあります。

日本国内においても、介護職の男女比は類似しています。介護職の正規職員のうち、女性は7割強のようです(厚生労働省「介護分野の現状等について」より)。
さらに女性については40歳以上の割合が多く、男性は40歳未満が主流とのことです。

そして年齢における感じ方の違いは、先述した通り、若い人ほど、「DXのスピードが遅い」と感じています。

今回の調査結果を日本にあてはめて考えると、日本でも現場は早く導入してほしいと感じているかもしれません。

現場の(若い職員たちの)声に耳を傾ける経営層が増えることで、DXが進み、結果として業界全体の負担が減ることになるかもしれません。

先進国における介護業界の上層部は、今まさに、力のいれどきなのではないでしょうか。

今回はスウェーデンの事例を参考にしたので、日本独自の状況も考えながら、イメージしてみてくださいね!