VRゲームで楽しみながら腰痛を治す 没入してアイテムを拾ううちに姿勢が改善

VRゲームで楽しみながら腰痛を治す 没入してアイテムを拾ううちに姿勢が改善

最終更新日 2022.11.22

スマホやパソコン、ゲームをやっていると、いつの間にか姿勢が悪くなっている。
現代において、そんな経験を持たない人の方が珍しいと思います。

実際、この記事を読んでいるあなたも、大方いずれかの電子機器を使用しているはずです。

「まだ若いから大丈夫」と思うかもしれませんが、裏を返せば高齢者にとっては姿勢の問題は深刻です。

今日のテーマは「ゲームで姿勢を直す」です。

この記事の要点

  1. 姿勢の悪さはさまざまなリスクを引き起こす
  2. 高齢者の姿勢を正すシステムが新たに開発された
  3. ゲームと融合させることで楽しんで姿勢を正せることが示唆された

姿勢が悪くなる原因と言われてきたゲームで、姿勢を直す研究があるようです。

腰痛はテクノロジーで治す

腰痛、脊椎の機能障害、変形性関節症、筋肉疲労。
これらは全て、「姿勢」に起因して起こると言われている問題です。特に高齢者の場合はそのリスクが非常に高いです。

厚生労働省が公開している「腰痛対策」という資料では、腰痛のリスクと要因、介助の方法まで記されていますが、基本的に人力に頼ったノウハウが見受けられます。
人力が十分でなかった場合、対策も十分でなくなるかもしれません。
そのため、根本的な問題の一つである「姿勢」に立ち返り、それをテクノロジーで解決することを考えたいところです。

ところで、テクノロジーといえば色々な想像が膨らみますが、身近な、凄いテクノロジーの結晶を忘れているかもしれません。それはタイトルにもある通り、「ゲーム」です。
姿勢の問題に限らず、ゲームをプレイすることは老化に対して有効な対策だと言われています。特に認知症の高齢者にとっては、すでに成果が検証されており、VRを使った回想法なども注目を集めています
身体的な健康に対してもゲームへの期待は高まっており、大衆向けゲーム機の「Wii」を使った被介護者向け健康アプリケーションも研究されてきました。

研究者たちの人気者

Wiiのようなマシンの、人の動きを検知するの機能を「モーションキャプチャ」と言います。2014年にマイクロソフトは組み込み自在のモーションキャプチャ・ツールを発売しました。それは「Kinect」と呼ばれています。組み込み自在であることや、その性能の高さから、研究者や技術者の間で高い人気を誇っています。

スペインの研究者Zelai Saenz-de-Urturiたちは、このKinectを使って、高齢者の姿勢の悪さを修正するシステムを開発し、ゲーム化を試みたようです。その報告が興味深いので、ご紹介します。

★この記事で参照している科学論文の情報

著者:Zelai Saenz-de-Urturi, Begonya Garcia-Zapirain Soto
タイトル:Kinect-Based Virtual Game for the Elderly that Detects Incorrect Body Postures in Real Time
URL:doi.org/10.3390/s16050704

見える化ってこういうこと?

研究者らは、69歳から96歳の15人のユーザーを対象に、実験を行なっていきました。他の研究と比べて、被験者の年齢層が圧倒的に高めですね。被験者らは高齢というだけでなく、2人は視覚障害(老眼)を患い、2人は黄斑変性症を患い、3人は車椅子で生活し、1人はパーキンソン病を患っていました。
特殊な実験なので、理学療法、心理学、ITのさまざまな分野の専門家が立ち合いのもと進められたそうです。

まず下の図は、今回捉えることのできた姿勢の精密さを表しています。

この点と点がつくる角度に基づいて、所定の角度が「20度以上」曲がると、姿勢不良だと判定されるように設定されたそうです。

ゲームを開始したあと、もし姿勢不良が検知されたらアラートを発生し、そのアラートの発生頻度や発生時間を記録するようにされました。

高齢者でなくともやってみたい

彼らが作ったゲームは、楽しんで体を動かす中で、姿勢を矯正することができるようになっているそうです。

上の図のように、ミッションに応じて体を動かします。ユーザーの姿勢が画面の中で簡略化されて表示されるようになっています。

ゲームの流れは以下のようになっています。

  1. ユーザー名を入力する。
  2. ゲーム開始前の姿勢が保存される(正しい姿勢を取る)。
  3. レベル1から、アイテム収集ミッションが始まる。正しい姿勢から外れていないかどうかは常にチェックされる。姿勢が悪いと、合計ポイントから減点される。正しい姿勢でプレイされている場合は、より多くのポイントを得られる。

ケーキやワインが上へ下へ、右へ左へ流れていきます。理学療法士の定義に従って「正しい姿勢」で回収しないといけないのです。さらに、レベルは3段階で構成されています。少し面白そうですね。

単純なつくりのようですが、姿勢を正すという目的のためのゲーミフィケーション(ゲーム化すること)としては基本ができているのではないでしょうか。やってみたくなった人もいるのでは?

このゲームを通して、被験者(69歳〜96歳)たちの姿勢は改善される傾向を示しただけでなく、ゲームを行うことに対して満足度が高いという結果も得られたそうです。

楽しみながら健康も手に入れられそうだ、という所ですね。

心がひとつになれること

現代の最新ゲーム機でも、ヒットタイトルのひとつはフィットネス関連のソフトです。消費者の意識と、開発者の見込みと、さらには国の方針が重なっている稀有な例ではないでしょうか。世の中にはいくつも指標があり、利害関係も混み合っていますが、健康だけは、皆が合意できる共通目標なのかもしれません。

こうした新しいテクノロジーの試みで、皆でいい時代を切り開いていけるといいですね!

臼井 貴紀
● 監修者情報
臼井 貴紀 Usui Kiki
Hubbit株式会社 代表取締役社長。藤田医科大学客員教員。早稲田大学卒業後、ヤフー株式会社に新卒入社。営業、マーケティング、開発ディレクション、新規事業開発など幅広く担当。その後、ベンチャー企業に転職しAIを活用したMAツールの立ち上げを行った後、Hubbit株式会社を設立。高齢者施設に3ヶ月住み込んで開発したCarebee(ケアビー)は、日本経済新聞、NHKおはよう日本、ABEMA PRIME等に出演。
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