高齢者でも簡単に命令できるスマートホーム技術 イノベーションより使いやすさ重視

高齢者でも簡単に命令できるスマートホーム技術 イノベーションより使いやすさ重視

最終更新日 2022.11.24

「Hey, Siri!」「OK, Google!」「Alexa!」

いまや何かしらのAIアシスタントが手元にいるのが、当たり前になりつつあります。

ガジェット好きにとってはたまらない時代である一方、置いてけぼりを食ったような気持ちになっている人も多いはず。

今は生活の一部の機能と結びついているAIアシスタントですが、制御範囲が広がり、家全体がスマート化することも予感させられています。

今日のテーマは「スマートホーム」です。

この記事の要点

  1. 現在のAIアシスタントによる家電制御は親切さに欠ける
  2. 研究者が新しいスマートホームの開発に着手
  3. 音声だけでなくテキストで制御できる構造を設計

介護施設全体がスマートホームになったら、どんな環境になるでしょうか?想像しながら読んでみてください。

★この記事で参照している科学論文の情報

著者:George Alexakis,Spyros Panagiotakis,Alexander Fragkakis,Evangelos Markakis and Kostas Vassilakis
タイトル:Control of Smart Home Operations Using Natural Language Processing, Voice Recognition and IoT Technologies in a Multi-Tier Architecture
URL:URL

モノのインターネット(IoT)と家

「ガジェット好き」の人々にとってはお気に入り、しかし一般的ではない、ある言葉があります。

それは「モノのインターネット(Internet of Things, IoT)」です。これは、あらゆる機械がインターネットに接続され、それにより従来よりももっと豊かなサービスが提供されるというコンセプトを表しています。

IoT化が進む中で最も期待される変化のひとつは、我々が、そして高齢者の方々が住んでいる「家」がより便利になり「スマートホーム」になるというものです。

「スマートホーム」といっても、これは分かるようで分からない言葉だと思います。

例えば、「22:00になったら家全体の照明を少し暗くする」などのように、家電類に命令を下せる環境だと言えばイメージがつかめるでしょうか。

しかし、こんな命令でも、ふだん電子機器を扱うことのない高齢者には、難しい操作であることを考えなくてはいけません。

現在のAIアシスタントでは、決まったフレーズを唱えなければ、目的の制御が実行されないことがよくあります。

高齢者が日常生活の中で自然に扱うには、この性能では不十分と言えるでしょう。

技術刷新ではなく、使いやすさを目指す

被介護者にとっても、便利に豊かな生活を送れるような、スマートホームの実現は需要があります。

高齢者や障害のある方々や、テクノロジーに慣れていないユーザーでも、デバイスと上手く対話して、スマートホームの制御ができるシステムがあれば。

そう考えたフランス・ブルゴーニュ大学のGeorge Alexakisらは、言葉を解読するテクノロジーを駆使して、新しいスマートホームアプリケーションを設計することにしました。

このとき彼らが注意したことは、新しくて尖った技術を発明することよりも、むしろ、既に存在する技術や、誰でもアクセスできる技術を使って、使いやすいシステムをつくることでした。

アプリケーションの設計

彼らは、音声だけでなく、テキストによっても制御できるアプリケーションを設計しました。

そのアプリケーションの構成には、Googleが提供しているFirebaseなど、誰でも利用可能なサービスが使用されていました。

※Firebaseとは、2011年から提供されている、モバイル・Webアプリケーション開発プラットフォームです。現在までで、150万以上のアプリがFirebaseを使用して作られました。

対話の事例

このシステムの特徴として、質問のフレーズがどんどんと学習されていくことがあります。

例として、温度に関する質問を投げかける時の、対話のバリエーションを下記に示します。

対話における柔軟性が伺えます。

このように使いやすさについては一定の成果が得られましたが、まだこの研究には2つの課題が存在すると研究者らは述べました。

1点は、スマートホームを制御する、このようなアプリケーションは(特に今回のように多数のサービスを組み合わせる形であると)、通信量が大きくなるために、現地のネットワーク環境に依存して、動きの滑らかさが異なること。

例えば、5Gや光回線であれば問題なく動くものの、それ以外の場合は難しくなるかもしれません。

もう1点は、実際に音声による対話での制御をテストした際に、「大声で」指示する必要のあるケースが何度かあったとのこと。これは、単にマイクの性能の問題ではありませんでした。

2点目については、高齢者が扱う上ではネックになるかもしれません。また、誤認識を行って、例えば真冬なのに暖房ではなく冷房をつけてしまうようなことがあれば、健康に対しても悪い影響がでてくるかもしれません。

言葉に宿る期待

さて、研究紹介は以上ですが、少しだけ閑話をさせてください。

この記事の中には、「AI」「IoT」や「スマートホーム」など、いくつかの抽象的な言葉が登場しました。

あるいは、他の記事の場合は、「ロボット」なども、抽象的な側面を持ちます。

このような言葉には、実現している技術をまとめる役割と、「こんな世界があったらいいな」という期待のイメージを含む役割があります。多くのメディアでは、このようなテクノロジーにまつわる抽象的な言葉を頻繁に使います。理由は色々とありますが、具体的すぎる技術用語を並べても、話の要点をつかんでもらえないことが多いからです。

しかし、実現する可能性の度合いや、実際に取り組んだ人の話を踏まえながら議論するのがとても重要です。

もちろん、「そんなの無理」と一蹴することは、手放しに信じること以上に危ないこと。

情報をキャッチしたら、ぜひ色々な角度から考えてみてくださいね!

なお、スマートホームと対(つい)になる技術が、スマート杖(またはスマート白杖)です。家の外にいる間も安全に移動できるデバイスが研究されています。

視覚障害者でなくても欲しい「スマート杖」とは

快適な暮らしの最新科学に関心がある方はぜひチェックしてみてください。

臼井 貴紀
● 監修者情報
臼井 貴紀 Usui Kiki
Hubbit株式会社 代表取締役社長。藤田医科大学客員教員。早稲田大学卒業後、ヤフー株式会社に新卒入社。営業、マーケティング、開発ディレクション、新規事業開発など幅広く担当。その後、ベンチャー企業に転職しAIを活用したMAツールの立ち上げを行った後、Hubbit株式会社を設立。高齢者施設に3ヶ月住み込んで開発したCarebee(ケアビー)は、日本経済新聞、NHKおはよう日本、ABEMA PRIME等に出演。
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