高齢者の介護・支援におけるドローン活用事例3選。徳島大学などによる眼球での遠隔ドローン操作の研究も紹介

高齢者の介護・支援におけるドローン活用事例3選。徳島大学などによる眼球での遠隔ドローン操作の研究も紹介

最終更新日 2022.11.22

徳島大学や東海大学などの研究グループが、介護を必要とする患者が眼球でドローンを遠隔操作するシステムについて、介護スタッフの役割と共に研究しています。本記事では、高齢者の介護・支援におけるドローンの活用事例を見ながら、研究の内容についてお伝えします。

介護・支援におけるドローン活用事例3選

ドローンは、研究開発が進むにつれて、社会での様々な場面で活用が報告されるようになってきました。高齢者の介護・支援の分野では「配送」「見守り」「レクリエーション」の3つが主な活用事例として挙げられます。

配送

高齢者の介護・支援でのドローン活用事例の中で最も報告件数が多いのが配送です。田舎の高齢者は、いわゆる買い物難民になってしまっていることが多く、空路から物品を届けることが高齢者の生活を助けることになります。

長野県伊那市はKDDIと連携して、買い物に行けない高齢者を支援する事業としてドローンでの食材空輸サービスを導入しています。

参考:国内初! 自治体運営によるドローン物流事業~空飛ぶデリバリーサービス「ゆうあいマーケット」~(KDDI)

また、過去には山間の集落に暮らす高齢者の自宅にドローンで物品を届けるサービスの実証実験が行われました。高齢者をサポートする事業を複数展開するMIKAWAYA21は自治体と連携することで、本当に買い物に困っている高齢者に絞ってドローン配送の実証実験を行いました。

※ドローン事業に関する情報は2022年7月現在、同社のHPには公開されていません。

参考:【ドローン宅配サービス】シニア向け生活サポート「まごころサポート×ドローン」の初フライト動画を日本初の国際ドローンにて公開!(PR TIMES)、MIKAWAYA21の会社情報(Wantedly)

また、買い物代行とは別に、処方薬・医薬品のドローン配送も社会実装に向けて計画が進んでいます。高齢化・過疎化が進む地域では医薬品流通ネットワークの維持が困難であり、オンライン診療が行われても処方薬が受け取れないケースもあるそうです。
一例として、少子高齢化が進む新潟県阿賀町は、エアロネクストなどと連携してドローンでの処方薬配送に関する実証実験を行いました。本実証実験は既に終了していますが、エアロネクストは2022年8月よりドローンで地域配送を効率化する事業を開始する予定とのことです。

参考:新潟県阿賀町で地域物流を効率化する新スマート物流“SkyHub®︎” の社会実装に向けたドローン配送実証実験を実施(エアロネクストHP)、KDDIスマートドローンとエアロネクスト、 地域配送を効率化・省人化する「AirTruck Starter Pack」を提供開始(エアロネクストHP)

また、岡山県和気町はヤマト運輸と連携して、医療用医薬品や個人向けの処方薬を患者宅や老人介護施設にドローン配送する実証実験を行っています。本実証実験の第1フェーズは2021年12月6日~2022年1月末までで行われ、次回(第2フェーズ)は、ドローンポートを使用せず個人宅へ離着陸する技術検証および、ドローン運航の内製化検証を行う予定であるとのことです。

参考:ヤマト運輸株式会社とドローン輸送に関する連携協定を締結(和気町HP)、岡山県和気町で医薬品のドローン配送を実証実験(日経BP)

見守り

屋内での高齢者の見守りは、スタッフの訪問や、見守りシステムにより行われています。しかし、屋外での見守りはまだ課題が残っています。

過疎地や中山間地域では高齢化で老老介護が増え、徘徊(はいかい)高齢者の追跡や見回りが自治体の課題となっているようです。そこで、ドローンの様々な活用を事業展開しているドローンネットは、ドローンで高齢者の見守りや安否確認などを含む自治体の課題を解決することを目指したプロジェクトを進めています。

参考:ドローンやAIは超高齢社会の救世主になるか(日刊工業新聞ニュースイッチ)

また、写真SNS「フォト蔵」などを運営するOFF Lineも類似した報告をしています。同社は認知症患者の「外出検知」と「徘徊を見守る位置情報システム」を開発し、金沢市内において大規模な実証実験をおこない、成功しています。ドローンが上空150mから検知できるビーコン(通信端末)が同社の商品で、現在「みまもりビーコン」として販売中です。

参考:OFF Line社、世界最長距離(見通し直径900m、半径450m検知)のビーコン(BLE)端末を開発し、自社開発の独自検知アプリをドローンに搭載し、上空150mからのみまもりサービス実証実験に成功(PR TIMES)、みまもりビーコン(OFF Line HP)

レクリエーション

高齢者向けのレクリエーションは各自治体や各施設で多く行われていますが、その一種としてドローンの操縦を楽しむ教室も開催されています。

JUIDA東日本ドローンスクールは65歳以上の高齢者を対象にシニアドローン教室を実施しており、その理由の一つとして「高齢者がドローンを操作する際に手先の細かな動きが必要になるため、脳が活性化され認知症の予防になる」と挙げています。

参考:シニアドローン教室(JUIDA東日本ドローンスクールHP)

また、愛知県豊田市では官民連携の介護予防プロジェクトが行われており、その中でドローン体験会が開かれています。そこではドローン技術を身につけるだけでなくドローンを中心とした「コミュニティ形成」も目的の一つとされています。また、空間認識能力の機能維持に役立つ可能性も視野に入れ、理学療法士などの専門家と協力を行なっているようです。本プロジェクトは2021年7月から5年間かけて行われるとのことです。

参考:ずっと元気!プロジェクト | ‘FunTech!ドローンチームNadeshiko’

被介護者が眼球だけでドローンを遠隔操作するシステムが研究されている

上述したようにドローンは高齢者におけるいくつかの課題を解決するものとして期待されています。
そんな中、国内の大学研究者グループは、介護施設で暮らす高齢者の孤独を解消する役割においてもドローンが役立つことに着目しました。
そこで、室内にいながら眼球運動のみで遠隔地のドローンを操作できるシステム、およびシステムにおける仲介者(スタッフ)の役割を研究しています。

参照する科学論文の情報
著者:Feni Betriana, Ryuichi Tanioka, Atsunori Kogawa, Riku Suzuki, Yuki Seki, Kyoko Osaka, Yueren Zhao, Yoshihiro Kai, Tetsuya Tanioka and Rozzano Locsin
機関(国):徳島大学、東海大学、高知大学、藤田医科大学
タイトル:Remote-Controlled Drone System through Eye Movements of Patients Who Need Long-Term Care: An Intermediary’s Role
URL:doi.org/10.3390/healthcare10050827

なお、高齢者の精神的な負担を軽減するテクノロジーについては以下の記事でも取り上げています。是非チェックしてみてください!

▶︎2021年おすすめロボットペット5選 「高齢者の孤独感を解消する」科学的調査結果をもとに
▶︎介護とリモートワークの未来 「遠隔操作ロボット」で認知症高齢者をケア
▶︎高齢者の話し相手として、ロボットに身体は必要か?科学的に検証

システム概要

以下は研究者らが開発したドローン遠隔操作システムの概要を示しています。

市販のシステムと独自システムを組み合わせたものとなっており、以下の要素で構成されています。

  • 操作画面
  • アイトラッキング(視線追跡)装置
  • コンピューター(室内及び遠隔地)
  • インターネット通信環境
  • ドローン
  • コントローラー
  • スマートフォン
  • Zoom(Web会議システム)

システムの流れは簡単に示すと以下の通りです。

  1. アイトラッキング(視線追跡)装置が患者(被介護者)の視線を追跡する。
  2. インターネットを介して視線位置データが遠隔地に送られる。
  3. 視線位置データに基づいて遠隔地のドローンが動き、制御される。
  4. ドローン側のカメラ画像が(逆のルートをたどって)患者に届く。

実験と結果

システムの性能と、仲介者(スタッフ)の役割を分析するために、実際に患者がシステムを操作する実験が行われました。実験が行われたのは西日本の精神科病棟、および遠隔地である東海大学でした。
大学ではリモートオペレーター(遠隔地での操作者)がシステムの制御をサポートする担当者として待機していました。アイトラッキングは初期設定とこまめな調整が必要なため、リモートオペレーターのサポートおよび現地での仲介者のサポートが必要でした。

遠隔地での操作者
リモートオペレーターの様子
施設での患者と仲介者
施設での患者と仲介者の様子

実験に参加した患者は17人で、そのうち1人は視力矯正眼鏡をかけていました。また平均年齢は69.1歳でした。

実験の結果、全ての患者のドローン操作は成功しました。東海大学の体育館でドローンは安全に飛行することができ、ドローンのカメラを通して患者は大学内の様子を見ることができました。また、実験の参加者は喜びを表現しました。

システムは上手く作動しましたが、患者が操作を滞りなく行えたのは仲介者の存在があってこそでした。
まず実験前の段階において、仲介者の役割は、主に以下の3つでした。

  1. 説明:患者に対して実験の手順を説明し、さらに遠隔地(大学)の操作者とのコミュニケーションに付き添った。
  2. サポート:アイトラッキングの設定をサポートし、また設定中の患者の頭の向きや視線の位置を固定する助けを行った。
  3. 動機付け:アイトラッキングの設定に手間取っている患者に対し、設定を進めるように促し、設定が完了した際には患者を誉めることでモチベーションを維持させた。
患者をサポートする仲介者(看護師)の様子

また実験中(ドローン操作中)には以下の3つの役割がありました。

  1. ファシリテート:実験中の患者を観察しながら、遠隔地の捜査者からの指示を患者に伝え直した。
  2. 共感:ドローン操作における補足的な説明を繰り返し行い、またドローン操作に成功した時に喜びを分かち合った。
  3. 評価:実験の継続について病棟のスタッフと相談し、患者の様子を見ながら必要に応じて中断の決定を行った。

以上から、仲介者には主に、患者に共感し、理解を示し、やる気を引き出し、技術的にサポートする役割が求められていることが分かりました。
中でも、実験中における「評価」の役割が最も重要だと考えられました。ただし今回の実験は精神病棟における患者で介護を必要とする人々が対象になっていたため、心理的な状態を評価するには仲介者(看護師や医療スタッフ)の存在が特に必要だったと考えられます。

研究者らは、今回の研究を通して以下の結論を得ました。

  • 施設で暮らす患者が室内から眼球運動のみで遠隔地のドローンを飛行させることができるシステムを開発することができた。
  • 患者は自ら操作したドローンを通して外の環境を見ることで、喜びを感じることができる。
  • ただしドローンが正常に操作されるためには、仲介者としての役割を担うスタッフのサポートが必要である。

まとめ

本記事では、高齢者の介護・支援におけるドローンの活用事例を見ながら、ドローンの新しい活用方法に関する研究をご紹介しました。

高齢者の介護・支援におけるドローンの活用はまだまだ発展途上でありつつも、多岐にわたる用途が試されており、これからが非常に興味深い分野ですね。

ご紹介した研究内容は、介護を必要とする患者が眼球でドローンを遠隔操作するシステムの開発、および介護スタッフの役割に関する分析でした。テクノロジーの発展によって、患者の精神的な健康状態が改善するきっかけが増えると期待が感じられる内容でした。

ドローンの研究開発やあらゆる分野での実用に関するニュースは絶え間なく流れていますが、高齢者の介護・支援分野における活用も注目していきたいですね!

臼井 貴紀
● 監修者情報
臼井 貴紀 Usui Kiki
Hubbit株式会社 代表取締役社長。藤田医科大学客員教員。早稲田大学卒業後、ヤフー株式会社に新卒入社。営業、マーケティング、開発ディレクション、新規事業開発など幅広く担当。その後、ベンチャー企業に転職しAIを活用したMAツールの立ち上げを行った後、Hubbit株式会社を設立。高齢者施設に3ヶ月住み込んで開発したCarebee(ケアビー)は、日本経済新聞、NHKおはよう日本、ABEMA PRIME等に出演。
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